当日でした

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 結婚式当日。  この結婚は当然此方が望んだものじゃない。  父は爵位が一番下の男爵。  平民だったのなら理不尽な結婚なんて押し付けられなかった……と嘆いた。  その理由は、私が学園卒業した直後に爵位が上の家からの命令があったから。  いくら一つだけとはいえ、上は上。  子爵家から無理やり捻じ込まれた縁談。  父は最初、突っぱねたけれど、相手の子爵家は父の弱味を握ろうと周囲を嗅ぎ回ったようで次に縁談を突き付けて来た時は、私の実の両親の存在を匂わせてきた。  私はそんな簡単に見つかるわけはない、と父に話した。父も簡単には見つからないと分かっていたはずなのに、それでも私の実の両親を長年探していたからか、匂わせられて縁談を承知してしまった。  子爵家は領地に起きた水害で作物が取れなかったからその補填として支援しろ、というのが条件だった。融資だと返金しなくてはならないけれど支援金なら返さなくていい、という発想らしい。  この国の法がそういう形になっているのか、私は知らないけれど。  もし支援金なら返さなくていいという法ならば随分と都合の良い法だな、としか思えない。  そして。  私の今後が勝手に決まってしまったことに、私自身が他人事で反発する気も起きないのは、通っていた学園で勝気だった性格をすっかり折られてしまったから。  私の結婚相手となる子爵家のクイロは顔合わせから私を見下していた。 「なんでこの私が平民上がりの、それも捨て子の女と結婚しなくてはならないんだ!」  というのがクイロの最初の言葉。挨拶一つしてもらえなかった。  すっかり勝気な性格が折れていた私は、その一言にも言い返すことは出来なくて。俯くばかり。この場に父と母も居たし、子爵自身も居たけれど子爵は発言を咎めることもしないし、父と母は言葉を失っていたように思う。  それと。  私が何も言い返さないで黙って俯いてしまったことに衝撃を受けたようで、男爵の爵位を買った時に同時に買った貴族街の片隅の男爵家へ私達が子爵家から帰った途端に、今までなら言い返していた勝気な私はどこに行った、と父は焦ったように、母は優しく尋ねてきた。 「ごめんなさい、話さなければ分からないと思っていたんだけれど」  学園は楽しい。  そう言って通ったのは嘘で。  平民上がりだと高位貴族から鼻で笑われ、無視をされ、下位貴族から攻撃的な言葉ばかり投げられる日々だった、とここで打ち明けた。  ……打ち明けるしかなかった。  父も母も明るく家を出て学園に通う私しか知らなかったから、衝撃を受けた顔で暫くその場に突っ立ってて。  恋人のレックとのデートから帰ったハンネに声をかけられるまで、父と母と私の時間が止まったように動けなかった。
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