当日でした

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 ハンネは私が学園で虐められていたことに気付かなくてごめんって謝ってきた。別にそんなこといいのに。謝ることじゃないのに。  そしてハンネも……私も虐められてしまうの、と怖がった。ああそうだ。その可能性があることに気づいてしまった。学園に通うのは貴族の義務。私は一年。ハンネも一年だけの予定だった。だからまだ通っていない。  ……私が臆病になってしまった所為でハンネが虐められてしまう基礎を作ってしまったのではないか、と恐れる。  両親が結婚式が直ぐにあるからそれが終わったら考えることにしよう、とハンネを説得。ハンネもそれには納得したようだけど、子爵の跡取りがそんな暴言を吐く相手で本当に私が幸せになれるのか、と両親に尋ねている。  幸せになれなくても、もう決まってしまったことだし、結婚式までたった一ヶ月しかなかった。普通は貴族の結婚式は下位貴族でも半年以上前から準備を進めるらしい。  一ヶ月しかないのは、急に決まった婚約だからというより、それだけ子爵家が金に困っているから、という事なのだと思う。なんとかウェディングドレスを着て貴族街にある小さな教会しか押さえられなくて、そこで迎えた結婚式当日なのに。  子爵家は中々来ない。  教会を押さえたのは子爵家側だというのに。  私の結婚相手のクイロだけでなく子爵夫妻さえ顔を出さない。  教会側だって無理やり入れられた結婚式の予定で、だからこそ時間厳守と言われていたから私達家族は時間よりも早く教会に来たというのに。  開始時刻直前に、子爵夫妻が苦虫を噛み潰したような表情で現れた。そして教会の神父さんに結婚式の中止を嫌々言い渡して頭を下げていた。  当然此方だって中止とはどういうことだ、と父が詰め寄る。  子爵は八つ当たり気味に父にクイロが駆け落ちしたのだ、文句あるか! と言っていた。 「文句しかない! 当たり前だ! 爵位が上だということを前面に押し出して無理やり婚約を結び、融資ではなく支援を勝手に申し渡してきた挙句に駆け落ちだ、文句あるか、と何を偉そうに! そちらが望んだ無理やりの婚約を、文句あるか、なんて文句しかない!」  これが多分、子爵も父と二人きりか、我が家での話し合いだったならばもっと高圧的だっただろうけれど、ここは教会。どんなに小さくても教会は身分差など無い、という建前がある。その神父の前で父にこのように言われても、言い返せない。  ……これが子爵に金があって、神父に袖の下を掴ませられているのなら、神父は子爵の味方だったとは思うけれど、逆に父が神父個人ではなくいけれど、教会そのものに寄附をしていたため、神父は父の味方だった。  寄附金のうち、いくら神父の懐に入ったのかは知らないけれど、そこまでは父も口出しは出来ない。けれど教会への寄附を前もって行い、結婚式当日はよろしくお願いします、と言っていた父と横柄な態度で寄附も何もなく無理やり予定を捩じ込んだ子爵と、どちらが神父にとって好印象か、という問題で。 「男爵様の仰る通りでしょう。子爵様に非があると我が教会は断じます。男爵様、この婚姻はどうされたいですか」  という神父の問いに、父は破棄で、と即答して支援ではなく融資の切り替えとして子爵に迫っていた。  さすが、商人の父。ここぞという時には強いなぁ、と私は他人事のように思う。  神父もそれを認めたからこれで婚姻は破棄だと思った……のに、子爵が悪あがきをした。
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