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猫田未亜
ここは都心から一時間あまりの美浦市平和町だ。
東京湾の埋め立て地に造られた比較的新しい町と言っても良いだろう。海と山に囲まれて風光明媚な町だ。夏になれば海水浴を愉しむ観光客が押し寄せていた。
ボクは春からこの平和町の交番に勤務している。
「ねえェッ、犬のおまわりさん」
突然、可愛らしい女子高生が交番へ入ってきた。
「はァ……」またこの子か。
彼女の名前は猫田未亜と言った。
アイドルのようにキュートな女子高生だが毎回、厄介な問題を持ち込んで来るので困っていた。
今日はいったいなんの用事なんだろう。嫌な予感がした。
「あ、ハイ、なんでしょうか。猫田さん?」
取り敢えず愛想よく会釈をした。
「ああァ、猫田って呼ばないで。未亜で良いわよ。未亜で」
まるで握手会のアイドルのようなスマイルを浮かべた。香水だろうか、近寄ってくると甘い匂いがボクの鼻孔をくすぐっていく。
「はァ、ミ、未亜さんですか?」
「フフゥン、さんもいらないわ。未亜でいいよ。呼び捨てで」
「いやいや、無理ですよ。そんなァ。じゃァ未亜ちゃんねえェ」
女子高生を呼び捨てになんか出来ない。
「フフッ、実はラッキーが居なくなったのよ」
「えッ、ラッキーって?」
「ワンちゃんよ。決まってるでしょ」
「いやいや、別に決まってはいないけど」
「ねえェッ犬のおまわりさん。一緒に探してェ」
少女のように甘えてきた。
「えッ、そりゃァ失踪したのが人ならもちろん探すけど」
おまわりさんは迷い犬を探すペット探偵ではない。
「えッえェッ、マジで。犬のおまわりさんは困った人の相談なら何でも聞くって言ってたのに」
泣きそうな顔でボクに訴えてきた。
「わ、わかりました。探しますから泣かないでください」
仕方がない。ボクは女の子の涙にはめっぽう弱い。特に未亜のような可愛らしい娘には形無しだ。
「ウッフフ、サンキュ、犬のおまわりさん」
ケロッとしてボクに抱きついてきた。
「ちょッちょっと、やめてください。ど、どんな犬なんですか?」
ボクはあたふたして訊いた。
「パピヨンよ。ほらァ見て。可愛らしいでしょう」
未亜はスマホの待ち受け画面を見せてきた。真っ白でフワフワした小型犬だ。
「はァ、可愛らしいですね」
パピヨンという名前の通り、耳が蝶の羽根のようでキュートな犬だ。
こうしてボクたちは迷い犬を探しているうちに、殺人事件に巻き込まれることになった。
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