6人が本棚に入れています
本棚に追加
ラッキー
ボクは付近の巡回のついでに迷い犬の捜索にあたった。
近所の子供たちからの情報でパピヨンを見たという界隈を中心に探していた。
「キャンキャン」
少し遠くから犬の鳴き声が聞こえた。
「おッ、ラッキーかな」
ようやく迷い犬を見つけだし捕まえようとするが、すり抜けていった。
「おいおい、待てよ」
エサでおびき寄せようとしたが、なかなか迷い犬は捕まらない。
そうこうしているうちにラッキーは大きな屋敷の庭へ逃げ込んだ。
金田金造という資産家の屋敷だ。強欲で愛人が何人もいるらしい。前妻とも喧嘩が絶えず、借金をめぐりトラブルを抱えているらしい。あまり良い噂を聞かない。
ラッキーは『キャンキャン』と吠えながらドアの隙間から屋敷の中へ入り込んでしまった。
「ううゥッ、マジかよ」
どうしてドアが少し開いているのだろう。いくら都会ではなくても不用心だ。また嫌な予感がした。
「ごめんください。金田さん。警察の者です」
不審に思いながらもボクは恐る怖そる屋敷の中へ入った。
『キャンキャンキャン』奥の部屋でラッキーが鳴いている。
「失礼します。金田さん、いらっしゃいますか。ラッキー、どこだ。ラッキー?」
鳴き声のしたリビングの方まで足を伸ばした。
「あッ!」
リビングへ入るとうつ伏せに倒れている男性を発見した。金田金造だろうか。その周りをパピヨンが走り回っていた。
「うッううゥ……」
大量の血が絨毯を赤黒く染めていた。
「か、金田さん?」
ボクは近づいて様子を伺った。だがどう見ても助けようがない。頸動脈を確かめるが、やはり亡くなっているようだ。
「マ、マジか。死んでいる……」
『キャンキャンキャン』
またパピヨンが遺体の周りを駆け回っていた。
「キャァーーーーッ」
不意に背後で女性の悲鳴が聞こえた。
「ううゥッ!」
驚いて振り返ってみると猫田未亜が両手で口を押さえ立ちすくんでいた。
「ミ、未亜ちゃん……」
ボクも気が動転してつぶやいた。
「あッ、殺っちゃったの。犬のおまわりさん?」
未亜はボクを見て目を丸くしていた。
「な、何言ってるんだよ。ボクが殺るわけないだろう。迷い犬のラッキーを追いかけて来たら金田さんが殺されていたんだ」
「マジ、ラッキー」
未亜は愛犬を捕まえようとした。
最初のコメントを投稿しよう!