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ダイイングメッセージは『もも』
ボクはすぐに救急車を呼んだ。ひと目見て助からないとは思うが、何もしないワケにはいかない。続いて警察へも連絡した。
「平和町一丁目の金田さん宅で殺人事件が発生しました。犯人は金田さんを殺害後、逃亡しております。住所は……」
詳しい住所を伝えた。
ボクが警察へ連絡している間、未亜はペットのラッキーを抱き寄せていた。彼女はラッキーを抱きしめたまま遺体を覗き込んだ。
「あッ、ねえェねえェ、ここ見てよ。ほらァ犬のおまわりさん」
未亜はコレクションでも見せびらかすようにボクを呼んだ。
「えッ、あのですね。未亜ちゃん。ここは犯行現場ですから、むやみに遺体を触ったりしないでください。指紋がついたりしたら、あとあと面倒ですから」
「いいから見てよ。ほらァここ。ここォ」
だが未亜は遠慮なく何度も指差した。
「えェ……?」
仕方なくボクは彼女の指差したところを覗いてみると遺体の手元の絨毯に何か字が記されていた。
「ンうゥ?」なんだ。これは。
目を凝らすと字らしきモノが書かれてあった。
『もも』と読める。
「ンうゥ、『もも』かァ?」
ボクはひとり言みたいにつぶやいた。
「これは、きっとダイイングメッセージよ」
未亜は愉しげに目を輝かせて微笑んだ。殺人事件だというのに不謹慎な女の子だ。
「な、なんだってェ、ダイイングメッセージ?」
そんなミステリー小説のような事が実際にあるのだろうか。クイーンの名作『Xの悲劇』じゃあるまいし。
しかし絨毯には確かに『もも』と書かれていた。いったいなんのことだろう。被害者は犯人の名前でも伝えようとしたのだろうか。
「ああァ、感激ね。生まれて初めてよ。ダイイングメッセージのある殺人事件なんて。ミステリーマニアの血が騒ぐわ」
未亜は喜んで小躍りしそうだ。
「いやいや、ミステリーマニアって」
殺人事件なのに喜んでいる場合ではない。
「フフ、真犯人は『もも』に関係のある人なのよ。きっとそうなんだわ」
未亜は自信満々に笑みを浮かべた。
「まさか……?」
間もなくパトカーのサイレンが鳴り響き、美浦市警の刑事たちが現われた。
怖持ての鰐口警部補は部屋へ入るなりボクを睨んだ。
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