鰐口警部補

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鰐口警部補

 怖持(コワも)ての鰐口(ワニぐち)警部補が部屋へ入るなりボクを睨んだ。  刑事というよりも反社会的勢力という感じだ。 「怖ァ、ヤッちゃんよ」  慌てて未亜はボクの背中に隠れて囁きかけてきた。もちろん警官のボクがガードしなくてはならないんだろう。 「おい、お嬢ちゃん。誰がヤッちゃんだよ。美浦市警の鰐口(ワニぐち)だ」 「フッフフ、ワニだって、噛みつかれたらどうしよ。犬のおまわりさん、助けて」 「大丈夫だよ。滅多に噛みつかないから」  ボクも知らぬ間に失礼な事を言ってしまった。 「おいおい、誰が噛みつくんだよ」 「ど、どうも」 「ッでェ、坊やか。第一発見者は?」 「ハイ、犬野と申します」 「はァ(イヌ)のォ?」 「フフッ、彼は犬のおまわりさんよ。そして私は未亜。猫田未亜」 「何ィ、犬のおまわりさんとネコたミァ」  鰐口は眉をひそめ困惑気味だ。 「名探偵未亜(ミア)よ。それよりも、ほらァ、(ワニ)のオジさん見てよ」  未亜は遠慮なく鰐口警部補を手招きをした。可愛らしい顔をして怖いもの知らずだ。 「ぬうゥ、誰がワニのオジさんだよ」  文句を言いながらも未亜の言う通り覗き込んだ。 「ねえェッ、見てってェ。ここにダイイングメッセージがあるでしょ」 「はァ、ダイイングメッセージ?」  鰐口も眉をひそめた。警部補(ワニぐち)にとってもダイイングメッセージなんて初めてのことだろう。 「そうよ。ここに『もも』って書いてあるでしょ。読めるワニのオジさん?」 「うるさいなァ。わかったから、これ以上、犯行現場でウロチョロするな。ッで、坊やは、どういった経緯でこの遺体を見つけたんだ?」  わずらわしそうに吐き捨てた。 「ハイ、ボクは未亜(カノジョ)のペットのラッキーが行方不明になったと言うので探していると、犬がこの屋敷の中へ入り込んでしまったんです。それで犬を追いかけていくとリビング(ここ)で金田さんの遺体を発見したんです」  ボクは簡潔に遺体発見の経緯を鰐口警部補に説明した。 「ふぅん、ッで、被害者に何か怨みがあるのか?」  疑いの眼差しでボクを睨みつけた。 「え、ボクがですか?」 「ああァ坊や以外に誰がいるんだよ」 「いえ、被害者に怨みなんてありませんよ。まさか警察官のボクを疑っているんですか」 「フフッ、坊や、知らねェのか」 「何をですか?」 「遺体の第一発見者が一番の重要容疑者なんだぜ」  鰐口は脅かすようにボクを睨んだ。 「えェッそりゃァ、そうですけど……」 「あッ未亜も知ってる。だいたい真犯人は善良そうで真面目な人なのよね。犬のおまわりさんみたいな警察官とかが案外、真犯人なのよ」 「あのねェ」  なんてことだろう。嫌な予感が的中した。  迷い犬のラッキーのおかげで飛んだ災難だ。
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