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咫種は少し考える。今回のこと、化粧に関しては彼女の協力が必要不可欠な気がした。どうやら何かを知っているようだし、何かをしようとしているのならそれも知っておく必要がある。自分の正体をむやみに言うわけにはいかないが、嘘や隠し事は彼女に失礼だと思った。
「少しよろしいかな」
少女に少し人から離れるように促すと近くの土手までやってきた。そして自分が奉行に仕えていることを明かした。
「世の乱れを正す御方であれば、気に留めるのは当然のこと。私のような者に正直に話して下さってありがとうございます」
「できれば協力をいただきたいと思いましたが故。嘘や隠し事をしながらでは話が進みません」
「私もこの地に来たばかりですので、力を貸していただけるのはありがたい」
そう言うと少女はスミと名乗り、化粧人の現当主であることを告げた。なんでも家族は既に無く化粧人はスミ一人なのだとか。
「逆さまに施された化粧、これはエンジャです。演技をするものを演者と言いますでしょう、それとかけているのです。人ならざるモノに変化するための化粧です」
「人ならざる者に?」
「死者は、初七日を過ぎるまでは己が死んでいると気づいておりません。この間に障りがあると鬼や妖となる者もいる。演者になるための化粧は、本来外法とされ禁忌なのです」
呪いのようなものだと言う。それを施されてしまった人の魂を救うのも、化粧人の役目の一つとのことだった。
「正しくおさめれば死人として黄泉路へ行けます。できなければ悪鬼となってしまう」
「スミ殿は、おさめ方をご存知なのですね」
「はい。ただし条件があります。自分で施したのか他人に施されたのかによっても対処が違います。もし自分で施したのなら、それをしてしまった感情の大元を断ち切らなければ救われません」
何か強い思いを残して顔に化粧を施したとなれば、解決しなければ意味がないということだ。他人から無理矢理化粧をされたのなら、手順を踏んだ化粧落としをして正しい死に化粧をすれば問題ないと言う。しかし自ら望んだのであれば、心のわだかまりを除かない限り解決とならない。
「万両殿の骸は今も家だ。化粧は落とせるだろうが、今の話からすると自害かどうか調べるのが先か」
「私の今の話、信じるのですか。悪鬼だなんだ、というものなのに」
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