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そんな日々を過ごし数年たった頃、尚哉は掛け持ちしていたバイトをやめて、建設現場で働き始めた。 そして、毎週していた、路上ライブも、月一回へと数を減らしていった。  その理由を聞いたけど、尚哉は笑って教えてくれなかった。  でも、尚哉が朝出かけて、夕方帰ってくる生活になり、一緒に過ごす時間も増えた。 そのことに私は、正直嬉しかった。だから、体力勝負の彼のために、私は、お弁当を作って持たせていた。  休日出勤の代休もらった日、私はいつもより気合いを込めてお弁当を作っていた。 「梓、おはよう」 「おはよう、今日のお弁当は特に頑張ったよ」  ふと見ると、起きてきた彼の顔色が悪いように感じた。 「体調大丈夫?何か顔色悪いんじゃない。今日休みをもらったら」 「大丈夫だよ。せっかく梓がお弁当作ってくれたんだし、これ食べて頑張るよ」 「でも…」 「じゃあ、今日は夕飯に俺が好きなハンバーグ作ってよ。それを楽しみに今日頑張るから」 「分かった…。でも、無理しないでね」 「了解。じゃあ、今日は早めに行くよ」  そういうと、彼は、朝ごはんを軽く食べ、お弁当と水筒を持つと仕事へと向かった。  私は、今でもそれを悔やんでいる。どうして、あの時無理にでも尚哉を休ませなかったんだろうかと。  掃除機をかけていると、突然携帯がなった。画面を見ると尚哉の同僚の茜ちゃんからだった。  彼女とは、尚哉の同僚の飲み会に一緒に参加させてもらった時に初めて会った。事務職ではなく、現場で働く彼女はサバサバとしていて話していてとても楽しくて、その場で連絡先を交換していた。 「茜ちゃん、どうしたの?」 「梓さん、落ち着いて聞いてください。尚哉さんが、救急車で運ばれました」 私は、その場に座り込んだ  茜ちゃんの話によると、尚哉は、足場を踏み外し下に落ちたらしい。あわててみんな駆け寄ったが、意識を失っており、そのまま救急車に運ばれたらしい。  私は、尚哉が運ばれた病院へと急いだ。病院につくと、茜ちゃんが入り口に待っていてくれた。そして、尚哉は今手術中だと教えてくれた。 (神様、お願いします。尚哉を助けてください)  手術室の前に長椅子には、見たことのない女性が座っていた。やがて、手術室から先生が出てくると、その女性に何やら話していた。  そして、そのあと手術室から包帯で頭や腕を巻かれた尚哉が出てきた。 「尚哉!」  駆け寄ったが尚哉はそのまま集中治療室へと運ばれて行った。  家族ではない私は、中に入ることは出来ず、外から眺めるしか出来なかった。 「梓さんですか」  そんな私に声をかけたのは、先ほどの女性だった。 「突然声をかけてすみません。私は、尚哉の姉です。よかったら少し話しませんか」  私達は、待合室の椅子に座って話すことにした。 「尚哉は、家族の事とか何か話していました?」 「いえ、何も聞いていませんでした」 「そうですか」  そういうと、お姉さんは、いろいろと教えてくれた。  尚哉の両親は、尚哉が中学生の頃事故で亡くなり、その時すでに働いていたお姉さんと二人の生活が始まったらしい。お姉さんは、弟には、大学を出てちゃんとした仕事について欲しいとずっと願っていたらしい。  しかし、尚哉は高校に入ると音楽にのめり込み、高校を卒業すると、お姉さんとけんかするように家を出たらしい。 「私が何度もフリーターなんてやめてちゃんとした仕事につきなさいって言ってもずっとやめなくて」 「そうだったんですか」 「梓さんは、尚哉の音楽が好きですか?」 「はい。お姉さんに怒られるかもしれませんが、尚哉さんには音楽を続けて欲しいと思ってます」 「そうなんですね。最近尚哉から連絡があって。音楽より、大切な人ができたって言ってました。だから、音楽はやめないけど、これからは、彼女の為だけに弾くって。だから、ちゃんとした仕事に就くから安心してほしいって」 「そんな、私は尚哉に夢を諦めて欲しいなんて思ってなくて…」 「違うんです。尚哉は、夢を諦めたわけじゃないと思います。ただ夢が変わっただけなんだと思います。尚哉は、あなたが嬉しそうに歌を聞いてくれるのが本当に幸せだって。だから、ずっとあなたの笑顔を守りたいって。そういってました」  私は、涙が止まらなくなった。そんな私の背中をお姉さんは優しく撫でてくれた。 「今の尚哉の状況を説明しますね。落ちた時に体だけじゃなくて頭も強く打ったみたいなんです。だから、先生は、目を覚ます確率は五分五分だろうって。そして、目を覚ましても何か障害が残るかもしれないって」 「そんな…」 「大丈夫、きっと尚哉は目を覚まします。あなたのそばにいるのが一番の幸せだって言っていましたから」  仕事帰り毎日のように病院に通っては、お姉さんから尚哉の様子を聞いた。しかし、一般病棟に移ってもなかなか尚哉は目を覚まさなかった。  そして、数ヶ月たった頃、お姉さんから仕事中に連絡が入った。 「梓さん、尚哉が目を覚ました」
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