ト書きのない文学シリーズ8 逆走

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警察「日下部(くさかべ)さん、わかってます?あなた逆走していたんですよ」 日下部「はい」 警察「なぜ逆走したんです?」 日下部「一度してみたくて」 警察「わかるぅ、とはならないですよ日下部さん。もう80歳ですよね」 日下部「ワシは、40歳を2回やったと言っております」 警察「おなじです。高齢者の逆走はね、すごく増えてるんです。大変危険なんですよ」 日下部「みんな元気だねぇ」 警察「まったくですなぁ、とはならないですよ日下部さん。今回は大きな事故にはななかったけど」 日下部「一歩間違ったら、今頃天国で天使と輪になって戯むれてる(たわむれてる)とこだ」 警察「一緒に踊りたーい、とはならないですよ日下部さん。もう、免許返上してもいんじゃないですか」 日下部「それは困ります」 警察「確かに生活に必要なのはわかりますよ。でもね」 日下部「それは困らんけど。車でナンパできんようになるんで」 警察「それは問題だ、とはならないですよ日下部さん。もう80歳なんだから。奥さんは?」 日下部「もう何年も前に」 警察「それはお寂しいでしょうけど」 日下部「何年も前に介護施設を出て元気です」 警察「紛らわしい言い方しないでください。じゃあナンパなんてしちゃダメでしょ」 日下部「元気なもんで」 警察「元気の秘密はなんですか、とはならないですよ日下部さん。そして、ズボンのファスナー開いてますよ」 日下部「元気なもんで」 警察「閉めてください。うん、いや、それは出さない。元気なのはわかったから、しまって!別の罪で逮捕するよ。そうそう。パンツに入れて。そう。だからね、ナンパはもう卒業して、免許も返上して」 日下部「人生も返上すると」 警察「いや、そこまでは言ってませんよ。だからなんでファスナー下ろすの。元気は関係ないよ」 日下部「換気」 警察「めっちゃ大事、とはならないですよ日下部さん。それにね、さっき天国で天使と戯れると言ってたけど、天国に行けるとは限らないからね」 日下部「行けるよ」 警察「なんで」 日下部「この間、なんちゃら教会の人から、壺を買えば必ず天国に行けるって、300万で買ったからな」 警察「いい買い物したねぇ、とはならないですよ日下部さん。騙されてます。だいたい、壺を買ったくらいでね」 日下部「いや、印鑑とか数珠とかも買ったよ」 警察「それだけ買えばオッケー、とはならないですよ日下部さん。ニュース見てない?それね、霊感商法といって、問題になってるの知らないかな。倒立教会ですよね」 日下部「確かそうだな。倒立すれば救われる言うてたな。その人、べっぴんさんだったからつい。へへへ」 警察「ワンチャンありー!とはなりませんよ日下部さん。あなた被害者です。コツコツ働いて貯めたお金でしょ」 日下部「いや、この間、万馬券当たったから」 警察「へえ、そうなんだ。結局、総額いくら払ったの」 日下部「1千万くらいかな」 警察「一千万?!あーもう。騙されてるんだよ日下部さん。1千万といったら大金じゃないの。いくら万馬券当たったといったってね」 日下部「宝くじで高額当選もしてたからな」 警察「それはおめでとうございます、とはならないですよ日下部さん。それね、警察に被害届け出してください。詐欺だから」 日下部「被害者か、ワシ」 警察「文句なしの被害者」 日下部「じゃあこれでグッバーイ!」 警察「はーい、お元気でぇ、とはならないですよ日下部さん。逆走したんだから、キップ切りますからね」 日下部「ついにワシも天国行きの列車のキップで!」 警察「ご乗車ありがとうございまーす、ってなるか!そして、ファスナー開けるなっ!!」             【了】
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