その花たち

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2023/10/30 ロベリア:『悪意』 ガチャと玄関の扉が開く音が聞こえ、掃除をしていたマチコは恐る恐る玄関を覗く。 そこにはリュックを背負った娘のサナエが居た。 「あ、お母さんただいま」 「サナエ!今日、部活は?」 「うん、まぁ、ちょっとね。」 マチコはサナエに貴女の好きなシュガーラスクがあるから手を洗って荷物置いたら食べてね。と再び掃除へと戻っていった。 サナエは自室のある2階へと上がって、荷物を置いた。部屋を見ると、綺麗に畳まれた衣服たちが置かれていた。マチコが持ってきたのだろう。ふと、クローゼットの下に目が行った。 「あ、落ちてる」 そう言って拾い上げたのは小さく折りたたまれた透明セロハンテープ。マチコはサナエが勉強以外の物を持っていないか時折部屋を漁りに来るのだが、サナエは完璧に物を隠す為にこうしてマチコが探りそうな場所にセロハンテープを挟んでおくのだ。そうして、その探られたエリアから物を安全な場所に移動する。その為のセロハンテープ。 「サナエー?手洗いはー?」 「はーい、今行く。」 サナエはバレないように小さく舌打ちをする。 一階へ降りるとマチコはコーヒーポットを沸かして何か準備していた。 「お母さん、私何か手伝うよ?」 「あら、本当?サナエは本当にイイ子ね〜」 マチコは昼食運んで欲しいとサナエに頼んだ。ダイニングテーブルへ昼食を持っていくと青い小さな花が飾られていた。 「さ、お昼にしましょうか。」 マチコとサナエは向かい合って座りいただきますと、いった。 「サナエ、また校内で成績1位取ったんですってね!お母さん、鼻が高いわ!近所の人にも褒められちゃったわよ。」 「もー、お母さん恥ずかしいからやめてっていってるのに」 マチコはそれから終始サナエが遅刻するかもしれない事を顧みず、ケガをしていた人を助けた事や、成績の話などをしていた。 どうやら、近所の人にも自慢げに話しているらしい。 「貴女、近所でも評判なのよ。可愛くて優しくて賢くて自慢の娘って言っちゃったわ。」 「ごちそうさま、私部屋行くね。お母さんは休んでて。」 サナエはそういうと2階へ上がっていった。 ─────────── 部屋へ入り、扉を施錠した。 「ふぅ。とりあえず。ご機嫌取りは出来たかな。」 近所の人にも自慢したとなると、明日の朝クラスメイトに目を付けられる可能性が高い。確かこのあたりで近所のクラスメイトと言えば、相葉さんだったかな。相葉は少し扱いづらいがこちらが下出に出れば問題ないだろう。明日は体育、内容はバスケ。相葉さんのコンプレックスは勉強。特技はバスケ。 やることは決まった。これで荒波を治めよう。 こうやって周囲を上手く調整するのは相変わらず大変だ。だが、コレは後々の計画に必要な作業の一つだ。そう思えば全く苦ではない。 家事炊事の手伝いだって、この先家を出ててくやっていく為に必要なスキルだ。 勉強は元々知らないことや難しいことを解き明かしていくのが好きでやっていただけなのに、いつしかあの人の自慢材料になってしまっていた。 父は父で呆れているらしい。父いわく今は深く関わり合いたくもなさそう。 そんな感じなのに、父はよく「サナエ、あんな人間になってはいけない。ああいう人間は本来利用されて使われて用済みになったら捨てられる。それだけの人間だ。利用されるような人間になるな。」と言われたことがあった。 父は大企業で成功を治めるほどの人間だがそんな父が人生で唯一失敗したと思うのがあの人の事だという。 まぁ、そんな事聞いても可哀想ともなんとも思えない私はきっとおかしいのだろう。 ベッドに置いたスマホがなった。 そこにはアカネちゃんからのメッセージが届いていた。アカネちゃんは予備校で知り合った別の学校の子だが、互いの境遇のことで意気投合し、今ではこっそり抜け出して遊びに行く程の仲だ。ずっと一人だと思ってた私にとってありがたい存在だ。 (サナちゃん、一ヶ月ぶり!私、ついに家でたよ!就職先に事情話したら社員寮に入れてもらえたの!!サナちゃんはいつぐらいで出れそう?近くに新しく出来た遊園地あるから出たら一緒に遊びに行きたいな!) との事だった。よかった、アカネついに家を出られたんだ! ホッと胸をなでおろし、スマホに返信を打つ。 (久しぶり!アカネついに一人暮らしおめでとう!私と遠からずに家を出る予定!その時また会おうね!) 送信ボタンを押した所で、部屋を入室後ノックする音が聞こえた。 「サナエ、いるか?」 「はーい、ちょっと待って。」 開けるとそこには父がいた。 「お前、進路決めたか?」 「うん、ここ。」 テレビでも見たことあるような学校舎の画像をスマホに表示し、見せる。 「ここ、学生寮付いてるし、近くには学生向けのアパートも結構隣接してるんだ。」 「母さんには話したのか?これは話しておいたほうがいいと思うぞ」 は? 「なんで、絶対反対されるよ。まさか、」 「告げ口はしないから自分の口から言うんだ。」 「そこはかなり有名だし偏差値も高い。またあの人のことだから、大きい所出てたら就職に有利になるとか言えば納得してくれるんじゃないか」 まぁ、自分の自慢が増えてるなら承諾しそうではある。 父は明日も早いんだろしっかり寝るんだと言って一階へと降りていった。 サナエはベッドへ身を投げ枕に顔を埋め、瞼を降ろした。 母は小さい頃からあんなで、昔こそは自慢の娘になれてこっちも嬉しかったが、ある時自慢された方の母親の子にいじめられるようになった。 母は貴方に嫉妬してるのよ放おっておきなさいと笑って済ませた。それ以来、母に対して何故か悪意ような感情が芽生えている。 なので、テレビやネットニュースで子が親を刺しただのという親殺しのニュースを見るたびいずれ自分もああなってしまうのではという恐怖に駆られる。 ああ、嫌なことを思い出してしまった。 眦から雫が溢れ出し、声を殺しながら静か枕を濡らす。 窓辺で母が飾ったロベリアが嗤うように揺れた。
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