その花たち

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2023/10/31 ヘリコニア:『風変わりな人』 「え?音楽室に何って?」 「だから、音楽室のメロス!」 「なんじゃそりゃ。メロスって太宰治の走れメロスの?」 「そうそう!それ!」 吹部仲間のフミちゃんが目を輝かせながら、吹部に伝わる怖い噂を私に披露する。 フミちゃん曰くその『音楽室のメロス』は、吹部が放課後一人音楽室に残って練習しているとどこからともなくメロスの格好をした人が現れて突然音楽室のピアノを弾き出し、居残りしていた吹部生とセッションしだす。という噂だ。 本当になんじゃそりゃ。 「それで、噂の検証したいから私に付き合ってほしいと?」 「ふふん、流石シホちゃん!話わっかるー!そう、付き合ってくれない?予定なければだけど。鍵はもう先生から借りてある。」 フミちゃんは先ほどから握っていた左手を開き、その中にある鍵を見せた。 「本当だ。準備万端だね。私も真相気になるし、付き合うわ。」 放課後、時計の針はすっかり6時を指し、校舎の外はもう日が落ちていた。ホームルーム教室に鞄たちを置き、スマホの灯りを頼りに音楽室に向かうため電気の消えた校舎内を歩く。 「うぅ、この学校ってこんな不気味だったっけ?」 フミちゃんは怯えながら、私の制服の袖を摘んでいる。 「ここ昔はお城あったみたいだからね〜。それもあるかも。あ、落ち武者の霊とか出たりして〜!!」 スマホのライトで顔を照らし恨めしや〜とフミちゃんをビビらせるとフミちゃんはうぎゃーと驚いた。 「もー、おどかさないでよ」 「ごめんごめん。あっ。」 ふざけ合いながら、ついに目的の音楽室の前についた。 「電気、着いてるね。」 「先生っていつも電気消して帰ってるよね?」 フミちゃんは怯えた様子で私に聞き返す。私もそれに頷いて、恐る恐る音楽室の扉を開ける。 「誰も居ない…?」 先に入った私に続いてフミちゃんも入ってくる。ただの噂じゃんと笑い返そうとするとフミちゃんの後ろに大きな人影が立っている。 「フミちゃん後ろ!」 フミちゃんが後ろを振り返ると大きな人影はズンズンと音楽室の中へ入っていき、ピアノの前に座り子犬のワルツを弾き始めた。 電気の付いた明るい部屋でよくみてみるとメロスの格好をし、おかめの能面を被った男性が子犬のワルツを弾いているというカオスな事態に私とフミちゃんはただひっつき合って硬直していた。 慣れた手付きで鍵盤の上を動く右手の薬指に特徴なホクロがあるのを見つけた。 この位置にこのホクロあるのってまさか。 ひとしきり演奏し終えたようで、とりあえず私は拍手を送った。 恐怖と好奇心の中私はそのメロスに、問うてみる。 「もしかして、国語のタケモト先生ですか…?」 「えっ!?タケモト先生ってあの地味な?!」 すると能面を被ったメロスはコクリと頷いた。 「やっぱり、こんな所で何してるんですか」 不審者がいないか見回り。居残りしてる人に下校を促してる。と能面の下からボソリボソリと聞こえた。 「な、なんでそんな格好してるんですか?」 先生は走れメロスが好きらしく、それでその格好をしていたのだとか。 「てことは噂の真相は。」 「メロスのコスしたタケモト先生って事だね…」 その真相にフミちゃんは肩を落とす。 タケモト先生は時計を指し早く帰りなさいと下校を促した。 さようならと挨拶し、私は落胆しているフミちゃんを連れてホームルーム教室へ戻り鞄を肩にかけ仄暗い校舎を後にした。 校庭の方から見回りをするとタケモト先生を見つけた。 タケモト先生、意外とちょっと変な人だったな…。まぁでも1番変なのは、 「そんな先生に片想いしてる私が1番の変人かな」 「ん?シホちゃんなんかいった?」 「え?あ、ううん。なんでもないよ〜。それよりカラオケ行かない?」 いいね!とノリノリの私たちに強い風が吹き始めた。 あぁどうかこの風がさっきの独り言を掻っ攫って言ってくれますように。心のなかで一人呟く。 学校卒業し成人式でタケモト先生と再会し交際するのはまた別の話。
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