第一歩

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 ガラガラと音を立てゆったりと進む台車は心地よく、昨日の疲れの残った二人はすぐに寝てしまった。  「1番近くの町までどれくらいなんだ?」  「さぁ、どこへ向かってんのかもわかりませんしねぇ…。」 ジャバは首を傾げ、うーんと唸った。  「…おいお前ら!どれくらいなんだ !?」  「は、はい!今向かってるのはラグバーレ、ここから2時間ほどの町です!!」 ハングは3度の敗北からか亮介に対し不本意にもかなり従順になってしまい、簡単に口を割った。  「ラグバーレ!?あっこかぁ…。」 ジャバはその名前を聞き目に見えて落胆した。  「ラグバーレは奴隷売買の盛んな町なんです。全体的に暗いっちゅーか…とにかく好きやないんすよ。」 俺が聞きたいことを察していたのか質問がなくともジャバはそう話した。まぁこいつらの目的を考えるとそうなるだろう。  ある程度までくると屋敷から続いた大きな道はなくなった。しかし馬車は止まることなく脇道に入り、平らな道を進んだ。森に詳しいと言っていただけのことはあり迷うことなく進み、気付けば正面が眩い光に包まれ、ついに森を抜けた。なおも動く馬車から森へ目を向けると心地よい風が頬をなでた。  -1時間半後  「只人の兄さん、見えてきましたよ。あれがラグバーレです。」 ハングの言葉を聞き、指さされた方を見ると大きな町が見えた。さて、ここまで来ると正直馬男たち(こいつら)はもう用済みだが…。亮介はチラリと姫乃に目をやった。先ほど目を覚ましたのだろう、重そうな瞼をこすり大きなあくびをしていた。その様子とは裏腹に足は痛々しく腫れていた。  「(どうしたものか…。)」 そんなことを考えていると突然馬車が止まり、後ろに倒れてしまった。  「キャ!!」  「おわあぁぁぁ!!」  「な、何!?」  「チッ!!」 亮介はサッと体勢を立て直し着地すると真っ先に姫乃を肩に抱えた。その後空いている手で由那の体を支え二人の転倒を防いだ。  「ぐぇ!!」 ジャバは思い切り顔から落ちた。  「約束は果たした。二度とあの森に来るなよ!!」 ロロズはそう言い残すと馬車すら捨てさっさと来た道を引き返した。  「行くかーーーーー!!こっちから願い下げよ!!」 姫乃が大きな声で叫んだ。それに便乗しジャバもそーだそーだと煽った。ハングは戸惑っている様子を見せたが亮介が行けよというと空の馬車を引きロロズの後を追った。  「あ、足立さん…。」 由那が声を出したので目を向けると肩を抱いていたことを思い出し、慌てて手を離した。  「わ、悪ぃな。」  「いえいえ!支えていただいてありがとうございます…。」  「ちょっと!!あんたら何いちゃついてんのよ!!とゆーか足立!!あんた由那から離れなさいよ!!あとはーなーしーなーさーい!…キャ!!」 姫乃が亮介から離れようと無理に動いたことで、体勢を崩し二人は大きく転倒してしまった。  「「いっ!!」」 その際に刺された肩と折れた足を刺激したらしく、図らずとも被ってしまった。  「姫乃ちゃん!足立さん!大丈夫ですか!?」  「ああ…。」 亮介はすぐに起き上がったものの姫乃はよほど痛いらしくうずくまったままだ。この様子だと移動は難しいだろう。   「おら、掴まれ。」 亮介が手を貸し、由那に体を預ける感じで何とか座らせた。さて、どうしたものか。  「あの、ジャバさん?」 由那がジャバに声をかけた。  「何か…回復するもの…魔法とかないんでしょうか?」 その問いにハッとした亮介がジャバの方を見た。そうだここは異世界…俺たちの常識は通用しない。ならば…!  「ええ、一応ありますけど…回復アイテムの回復薬(リラッグ)は今手元にないですし、もちろん《回復(ペイア)》は使えませんし…。」  「あの町で買うことはできないのか?」  「わっしも兄さん方もないでしょ?お金…。」 俺たちはともかくこいつも持ってないのか…。  「最悪リラッグの材料でもあるリラの実ぃがあったら何とかなるんすけどねぇ。」 それを聞き、思い出したように動き出しロロズに投げ捨てられた鞄に手を伸ばした。ポカンと亮介を見つめる三人の前で鞄の中身を撒き散らした。  「あの森で集めた食えそうな実や草だ。この中にー」  「これです!この実や!!リラの実、これを潰すと…」 亮介の鞄から飛び出したリラの実を見つけるとジャバはそれを握りつぶした。すると手を濡らす程度の果汁が絞れた。  「さて、あとはこれを…」 姫乃の方を見ると足を怪我しているとは思えない速度で由那の後ろに隠れた。  「あんたに塗られるの…なんかヤ…!!」 目に見えて落ち込むジャバの手から果汁を取ろうとした亮介に  「あんたはもっとイヤ!!」 と強く言った。  「アホか、自分に塗るんだよ。」 勘違いしたことで顔を真っ赤にした姫乃を由那に任せ、亮介は自身の肩にリラの果汁を塗り込んだ。
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