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「中々ええもんあるやないか。これなら四人分は出したろ。」
亮介が鞄を渡すとルコットは軽く品定めし、そう言った。姫乃と由那は飛んで喜び、すでに待ちきれない様子だった。
「…お前自分の分くらいは何とかできるか?」
お金をちゃりちゃりと数えるジャバに亮介がため息交じりに尋ねると震える手で親指を立てて見せた。
「だ、大丈夫。うちに帰れば少しくらい貯金が…!」
ジャバはそう言い残しルコットの店を後にした。ルコットの店には何人かのリザードマンが食事しており、ちらちらと亮介一行に視線を向けていた。
「じゃ、好きなとこに座りな。メニューは何でもいいね?」
亮介が頷こうとすると姫乃と由那に押され、その場に倒れてしまった。
「虫はだめよ!!虫以外!!」
「虫はだめです!!虫以外でお願いします!!」
声を合わせて言う二人の下でスイが亮介に心配そうに寄り添った。
「で…どしたんすか?」
大きなカエルの貯金箱を抱えて帰ってきたジャバは四人と同じ席に着くとさっきとは違う雰囲気に声を出した。間も無く姫乃と由那の頭に大きなコブができていることに気づいた。
「なんでもねぇよ?なぁ?」
明らかに怒りが含まれた口調でスイにふった。スイは亮介と由那たちの顔を交互に見合わせ、ゆっくりと小さく頷いた。
「なんでもないやないやろ?女子は叩くもんやないで〜!」
厨房からお盆を持ったルコットがそう言いながら顔を出した。
「俺ぁ男女平等主義なんでな。」
ルコットはため息を吐きながらお盆に乗った料理を並べていく。肉料理を中心としたそれは五人の鼻腔を刺激した。
「すごい…美味しそうです!」
ここに来て初めてのまともなご飯に思わず涙がこぼれかける。
「やっほう!わっしも辛抱たまりませんわ!!」
「私も!」
姫乃とジャバが飛び掛かろうかというところで由那が二人を制止した。
「お二人とも、ちゃんといただきますしないとダメですよ!」
ハッとした姫乃はパンッと元気よく手を合わせた。ジャバにはしっくりこないようで首を傾げた。
「あ、あの…」
スイもそういう文化を知らないらしく戸惑いを見せた。
「…まぁ俺たちの習慣さ。適当に合わせたらいい。」
そう言うと亮介も両手を合わせ、見よう見まねでスイも合わせた。
「そうです!食べ物や作ってくれた方々に感謝の気持ちを送るんです!」
ムフーッと鼻を鳴らし由那が手を合わせた。
「それじゃ、作って下さったルコットさんと食材に感謝を込めて…」
「「「いただきまーす!!」」」
由那の掛け声と共に三人が声をそろえると遅れてスイとジャバが声を出した。
「…なかなかええやんか…それ。」
ルコットはいただきますが気に入ったようで、何か思いついたのかすぐにその場を去ってしまった。
「えっと、これはフォークかな?これは…ナイフ?それから…」
由那がモタモタしている隙に四人は獣の如く料理に齧り付いた。
「足立!あんた遠慮しなさいよ!虫食ったんでしょう!?」
「金出したんは俺だぞ!!遠慮ってんならお前がしろよ!!」
「うま、うま!」
「ぐっ…喉に…姐さん!み、水…!」
そんな四人の様子に圧倒されていると亮介が鳥の丸焼きの足をちぎり由那の皿に置いた。
「食わねぇと無くなんぞ。」
慌てて両手に持った食器を見合わせながら、使い方を考えていると亮介がそれを取り上げた。
「こんなもんいらねぇよ。思いっきりかぶりつけ…!」
ニッと笑う亮介に何かが切れた。
「は、はい!あぐっ!」
由那は脂ぎった肉を掴むと力強くかぶりついた。
「んーーー!!」
口いっぱいに広がる肉汁と旨みに思わず頬を押さえた。それから由那も加わり、五人は食事に勤しんだ。
「ちなみに…あんたちゃんと持ってんねやろな?金貨5枚やで?」
ルコットが戻ってくるとジャバに尋ねた。
「当たり前やろー!こんだけ重いんやで?金貨1枚分くらいあるわ!」
ジャラジャラとカエルの貯金箱が重たそうに揺れた。
「ほならはよ出さんかい。」
ルコットに言われ、ジャバが貯金箱を開けると大きな音を立てジャラジャラと大量のおもちゃのコインが落ちた。最後に1枚だけ銅貨がコロンとその上に転がった。
「……。」
「…んだこれ?」
亮介が1枚を拾い上げるとそう呟いた。
「…あんねやな?5枚…。」
ルコットの威圧にジャバは滝のように汗を流し一言、
「…ツケで!」
と言う言葉を残しルコットに引かれながら厨房へと姿を消した。
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