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足りないもの
「はぁー、スッキリや。」
村長の家から少し離れたところにあるトイレからジャバが満足げにその姿を現した。
「さて、さっさと向かってーあれ?」
ジャバが村長の家へと向かい足を進めようとしたところ、ブラッジが視界に入った。
「ブラッジさーん!」
ブラッジに声をかけ近づくと何か驚いた様子を見せながらこちらを向いた。
「お、おぉジャバか。」
どことなくよそよそしい様な態度に違和感を覚えたが、まぁわっしへの態度なんてたいていはこんなもんや。特に気にすることなく目的であるジームリィの事について尋ねた。
「…さぁ、あいつは予測できんからなぁ…。やけど今回は西の『カーボの街』に向かってるはずやから、あと1週間は帰ってこんのとちゃうか?」
「カーボの街っすか…ありがとうございます。帰って兄さん達と相談してきますわ。」
聞きたいことを聞き終えたのか、ジャバは足早にその場を去ろうとした。小さい頃から変わらないその走り姿に思わず声をかけてしまった。
「っと、どうしたんすか?」
何も変わらないな…こいつは。
「あの只人を…随分と慕ってるみたいやな。」
「ええ、あん人はわっしの命の恩人ですから。それに…。」
ジャバの脳裏に亮介の姿が浮かぶ。
「何や?」
「あん人はわっしに無いもんを…持っとる。ーなんて!じゃ、また!」
そう言い残すとジャバは駆け出した。
「く〜!ちょい遅なってもうたなぁ。って、またまたあれ?」
村長の家へ向かって走っているとまた見覚えのある姿を目撃した。
「こんフクロッグって…シラカワはんの?」
道のど真ん中でドンと小さくかまえるフクロッグは正に先ほど取りに行った由那のフクロッグだった。
ジャバが手を差し出すとゆったりと動き出し、その手に乗った。
「お前さんまさか逃げてきたんか?そりゃまぁ取ったばっかやしな。」
フクロッグを優しく手で包むと再び、今度はゆったりと歩き出した。
「ジャバさん!!」
村長の家へ向かっていると慌てた様子で由那が目の前に現れた。
「おお、シラカワはん!すんません遅くなってしもて。ちゅうかどうしました?んな慌てー」
「わたまろがいなくなっちゃったんです!!」
食い気味に答える由那に思わずたじろいでしまった。
「…わたまろ…?」
「あぁ…どうしましょう!?私ってば…せっかくジャバさんが時間をとって連れてってくださったのに…!すぐに見失ってしまうなんて…!!」
「ちょ、ちょい落ち着いてください!!」
ジャバが大声で叫ぶと由那は両目いっぱいに涙をためながら動きを止めた。ジャバはふぅと一息ついた。
「えー、まず、わたまろってのは?」
「…さっき私とお友達になった…フクロッグちゃんです…。」
ボソボソと由那が言うとジャバは2度大きく頷いた。
「すよね。特徴は?どんなでしたか?」
「特徴はぁ…オレンジっぽい色でぇ、うっ、おながにぃ黒いおへそみたいな模様がぁ…うわぁーー」
特徴を述べている途中で由那はついに泣き出してしまった。大声で泣く由那に当然視線が集まり、ジャバには冷たい視線が向けられた。このままじゃなかなかまずい!
「シラカワはん!シラカワはん!ほら!!こいつ!見てください!!」
大声で由那の気を引くと、ゴシゴシと涙を拭いジャバが差し出した手を見た。
「じゃーじゃん!」
パッと手を開くと小さなフクロッグがどっしりと腰を下ろしていた。そのお腹にはへそのような模様がはっきりと見える。
「あ、あえ?」
「さっきたまたま見かけたんすよ!で、シラカワはんのかと思って!」
そう言っている間にフクロッグは由那の胸へと飛び移っていた。由那が抱きしめるとフクロッグ、わたまろは満足げな表情を浮かべた。
「わだまろ…よかったよぉ〜〜!」
由那は安心からか再び泣き出してしまった。
「(やれやれ、落ち着くまでそっとしておこ)ーゔ!?」
そんなことを考えているとゴォンといい音が響き、頭に激痛が走った。ジャバがその場に倒れるとその後ろに鉄拳を振り下ろした姫乃が写った。
「あんた…!由那を泣かすんじゃ無いわよ!!」
「……?ーひ、姫乃ちゃん!ちがー」
目の前で起こった出来事をついに理解した由那が姫乃の勘違いを止めようと姫乃に近づいた。…それがジャバの最後に見た景色だった。
「(別に…死んでまへんけど…ね。)」
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