7人が本棚に入れています
本棚に追加
「実をいうと…帰り道がわからないんです…。今日たまたまあなたを見かけてずっと追いかけていたらいつの間にか全然知らないところに…。」
タハハと頭をかく由那に亮介は大きなため息をついた。
「携帯で調べたらいいだろ?」
由那はそういうと思っていたといわんばかりに自信満々と充電の切れた携帯を見せた。…馬鹿だ。こいつは。
「あ!でもさっきお友達の姫乃ちゃんに連絡を送ったんですよ!゛今足立さんといる、助けて“って!」
「…は?」
それは…まずくないだろうか。それもかなり。
「ちゃんと充電切れる前に…私も成長しまー」
「由那ーーーーー!!」
由那の声を遮り甲高い声が響いた。声の方を見ると…嫌な予感は見事的中、姫…なんとかとか言う女と3人の警察がこちらに向かって走ってきていた。
「な、なんで警察さんが?」
「お前のお友達とやらが呼んだんだろ…余計な事してくれるぜ…!」
「またお前か!!足立亮介!!」
「チッ!」
亮介が走りだそうとすると由那が手を掴んだ。
「なんで逃げようとするんです!?」
「ッ!離せ!ありゃどう見ても俺を悪者だと思ってるだろ!!」
「逃げればさらに疑われます!私も説明しますから!」
「由那!!足立、あんた離しなさいよ!!」
姫乃が由那を後ろから抱きしめる形で捕まえ、亮介から引きはがそうとする。いまだ警察官は遠くにいる。驚くべきは姫乃のスピードだ。
「この女が掴んでんだ…!早く離せ!!」
「え?…由那!!離しなさい!!」
「逃げちゃダメです~!!」
その時、突然由那の抱えていた子犬が騒がしく吠え始めた。それに驚いた姫乃が体勢を崩した。
「キャ!突然なに!?」
「姫乃ちゃん!引っ張らないで…キャァ!!」
「お前ら…!」
姫乃を筆頭に大きく体勢を崩した三人と一匹は近くにあった噴水に飛び込んでしまった。三人はすぐにそこから出ようともがいたが、なぜかいつまでも底に手が付かなかった。違和感にいち早く気づいたのは亮介だった。およそ30cmの水深であるはずの噴水で全身くまなく浸かっていること、そして体をどの方向に向けても水面をとらえることができないこと。姫乃、由那と続きそれに気づくと慌ててバタバタと動きだした。いつの間にか三人は深海のように暗い水の中にいた。
「(なんだ…?何かおかしい…いや、今は…)」
亮介は残された酸素を節約するため、とにかく思考を捨てた。
あくまで冷静に勤める亮介とは違い由那たちは慌ててバタバタと体を動かし続けた。それは由那たちの体に残る酸素を浪費させた。
いち早く苦しみだしたのは姫乃であった。由那を探すため走り続けていたこと、それが原因だろう。間も無く暗い水の中に一筋の光が差した。亮介はそれを見つけるや否や動きの鈍い姫乃を抱え水面へ一気に泳いだ。それに続き由那が泳ぐ。
「ヴバァァ!!」
水面にあがると同時に大きく息を吸った。
「おい!息を吸え!!死ぬぞ!!」
亮介は姫乃の頬を叩き背中をさすった。すると姫乃はゴホッと水を少し吐き出し、息を大きく吸った。その様子にホッと胸を撫で下ろし川岸まで姫乃を運んだ。
「…な…」
姫乃が呼吸音混じりに声を上げた。
「なんだ!?」
「由那は…?ハァ…いるの?」
「(こんな状態でも人の心配か…)大丈夫、後ろからー」
後ろを振り返るとそこに由那の姿はなかった。亮介は慌てて水中へ戻った。由那は気を失っているのかゆっくりと下へ向かっていた。
「(なんだありゃ…穴か?)」
由那の先には暗い穴が広がっていた。
「(さっき俺たちが通ってきた道か?)」
それが縮小していることに気づいたのは由那と穴の間隔が2mを切ったころだった。
「(小さくなっているのか?だとしたら…!)」
亮介は由那へ向け、一気に加速した。しかし穴へ進む由那が一歩早い。
「(グッ!もう少し…もう少し加速できれば!!)」
口から泡が漏れ、目を瞑る。再び開けると由那の手が届く位置にあった。
「(??-くッ!)」
手を限界まで伸ばし、由那と手を絡めた。そのまま肩に抱えると水面へ向かって泳いだ。
「ブハ!!」
水面から顔を出すと大きく息を吸った。すぐに視線を由那に送ったがどうやら息がない。
「おい!!目ぇ覚ませ!!」
声をかけながら岸に上げたが反応がなかった。亮介は由那の頬を叩きながら胸骨圧迫を行う。時々水を吐き出すのでのどに詰まらないようにする。
「おい!!お前も手伝え!!」
姫乃に声をかけると重い体を動かしこちらによっていた。
「…何をすればいいの?」
「人工呼吸をしてやってくれ。」
その言葉に一瞬の沈黙が流れる。しかしすぐに大きな声を上げた。
「うるっせぇな、なんだよ。」
「人工呼吸って、え、私が!?」
「俺がするよかいいだろ。」
「…そうよね、今は一刻を争-」
「お、自分で息を吹き返したぞ。」
「あ、そう…。」
由那はゴホゴホと水を含んだ咳をすると荒々しく息を吸い始めた。
どうやら何とか三人とも助かったようだ。亮介はふぅッと息をついた。周りを見渡すと見覚えのない森のような場所が広がっている。自分が落ちた場所も噴水であったはずだ。しかし三人が出てきたのは大きな川だった。
「何だってんだ…これは。」
頭を整理しようにも酸欠からかうまく頭が回らない。由那はいまだに荒々しい呼吸をしている。姫乃は由那の横でぐったりとしている。
夢のように思える今日の出来事もいつの間にかできていた左腕のけがの痛みが現実だと強く訴えかけている。
最初のコメントを投稿しよう!