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ラグバーレを駆け抜けろ!
「はいよー、走れ!」
ピシッと大型の鳥を叩き走り出した鳥乗りを躱わし亮介一行は町に入った。リラの実を塗ってからというもの10分足らずで姫乃は立てるほどに回復し、俺の傷も塞がった。異世界様様だな。
「おっとと!」
後ろからくる馬車にジャバが身を翻した。そこには檻に入った生物が乗せられていた。今まさに潜ろうとする門に目をやると
「ラグバーレ…。」
同じく目を向けていたジャバがつぶやく。どうやらラグバーレと書かれているらしい。
「おら!こんなとこで止まってんな!!邪魔だぞ!!」
門前で足を止めた四人に馬車を引くガラの悪い男が叫んだ。サッと道を開けると男は馬型の生物ホーロに鞭を打ち馬車を進めた。
「で?こっから村まではどうやって行くんだ?」
「えーと、ジェバスの村はラグバーレの北側やから…こっちです!」
ジャバについて町を歩いていると聞いていた通り奴隷売買が盛んなようで至る所で生物に値段がつけられていた。
「なんか私たちすごく見られてない?」
先ほどから強く感じる視線に敏感な亮介だけでなく姫乃も気付いていたらしい。
「まぁ、只人が奴隷やなく一般人としてここへ来んのは珍しいんでしょう。」
確かに周りを見ると俺たちのような特徴のないいわゆる人間が多く売られていた。まぁ…気分の良いものではないな。
「お、おいぃ、リザードマンのお兄ちゃん!そ、それ、その人っこ一人う、う、売ってくれよぉお。」
突然現れた小汚い泥のような男がジャバに歩み寄った。
「すんませんが、この方たちは商品じゃないんす。他をあたってください。」
ジャバが頭を下げたが男は引く様子を見せず、一番抵抗をしないと踏んだのか由那の腕をつかみジャラジャラとお金の入った袋を差し出した。
「なぁなぁいいだろぉ?頼むよぉ!好きなんだよぉ只人がぁよぁ。と、特に肉のやわっこい女がよぉ!」
「無理やってのに!!こら!離せっての!!」
どうしても離さない男に由那の目に涙が浮かんだ。だんだんと男の表情が曇りジャバも焦りだす。この状況に何もしないはずがない亮介は男の持つお金の詰まった袋を蹴り飛ばした。パンパンに詰まった袋はいとも簡単に封が解かれ、そこら中に金銀銅貨が散らばった。
「うあぁ!!何するんだぁ!!」
男が慌ててそれを拾おうと動いた瞬間、姫乃が由那を引っ張った。
「走れ!!」
そう叫び、一行は一気に駆け出した。幸い小汚い男とその周りはお金を拾うのに夢中で四人から気が逸れていた。
ある程度まで移動すると人気のない路地裏で四人は足を止めた。
「はぁはぁ、由那大丈夫?」
「う、うん大丈夫。ありがとう。」
口ではそう言っていてもやはり落ち着かないらしく、足がガクガクと震えていた。姫乃が水筒をカバンから取り出すと由那にゆっくりと飲ませた。
「やっぱ只人にはラグバーレは危険や…でも町の外から回ろうにも広い上に中々険しい道のり…どうします?」
「…正直どっちでもいいが…。」
「装備が整ってないのに山はちょっとね…。」
ラグバーレは東西に大きな山に囲まれた渓谷のもとにある町だ。食料も防寒具もない俺たちが超えるのは不可能に近い。
「やっぱりこの町を抜けるのが1番か…。」
ちらりと由那に視線を向けた。唇をキュッと噛み恐怖を堪えているようだ。
「へ、変装っていうのは…どうですか?」
亮介の予想は違ったようで由那は頭を回していたらしい。
「変装…すかぁ。」
「はい。さっき色々な人を見たとき、マントのような物を被った私たちと近い体格の方々がいらっしゃったので…。」
「マント…あ、多分そりゃ影人族すね。確かにあれなら顔も見えませんが…マントはどうします?」
手持ちの布で1番大きいのはジャバの持つ植物製の布だが一枚しかない上に厚さも違う。
「お前買ってこいよ。町で自由に動けるのはお前だけだろ?」
亮介がジャバを指しそういった。
「いやいや、お金ないって言ったやないですか!分厚い布三枚ってなったらボロボロでも金貨一枚はいりますから!!」
「お前さっきあの汚ねぇオヤジが落とした金拾ってただろ?それ使えよ。」
見本のようなギクリとした動きを見せ、ジャバは口笛を吹き始めた。
「はぁ?あんた泥棒したの!?」
「いや、泥棒ってわけじゃ…こりゃその、そう!迷惑料っす!シラカワはんにかけた迷惑料を貰った…当然の権利でしょう!!」
「だからって勝手にもらってきていいわけじゃないでしょうが!!」
当たり前のことを言われ、ジャバはしゅんとしてしまった。そこへ由那が駆け寄った。
「ジャバさん、私のためにありがとうございます…!」
苦しい言い訳を聞き入れてくれたのが嬉しかったのかジャバの顔に笑顔が戻った。
「でもそれ私への迷惑料なんですよね?」
「え、ああそうですよ!?」
「ではそれは私のお金、ですよね?」
ニコリと笑う由那にジャバはしまったという顔を見せた。
「布を三枚、お願いしますね?」
顔を崩さずに言うと観念したジャバは泣きながら町の方へと駆けて行った。
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