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2日目の終わりに
それからさらに時間が進み、いつの間にか辺りは真っ暗になった。パチパチと薪が燃える音が響く洞窟は暖かい灯りに包まれ、三人は眠っていた。
「ほい、薪です。」
ジャバが表で割った薪を抱え、火元へ帰ってきた。亮介はそれを受け取ると細いものを火へ放った。
「兄さん、寝なくていいんすか?」
「……あぁ。」
多少の気だるさはあるが今すぐに横になりたいと思うほどではない。
「お前は?いいのかよ。」
「わっしはリザードマンですから、3日は寝ずとも平気です。」
リザードマンだからかは知らないが確かにジャバは全く眠そうな様子は示さない。しかしここにきてからと言うものジャバは黙っていることが多くなっていた。
「…その割には元気がなさそうに見えるが?」
その様子に気づいていた亮介が尋ねるとジャバはあからさまにぎくりと肩を震わせて見せた。
「な、なんで…いや!別に疲れただけっすよ。結構走りましたからな。」
グッと体を伸ばしやれやれと首を左右に倒した。
「…そうか。だったらその辛気臭い顔をやめろ。気分が悪くなる。」
ガンッと肩を叩かれるとジャバはすんませんと言いながら笑って見せたがやはりそれはどこかぎこちない。
「(スイ…どこのプルオーグの奴隷やろうか…面倒なことに巻き込まれんかったらええけど…。)」
カランッという薪の落ちた音で意識が戻され、視線を向けると亮介と目があった。いまだに向けられる怪しむような視線にジャバは気まずさを覚え、気まずい沈黙が流れた。洞窟内は焼ける音と空洞音がうるさいほど響いた。
―リリィ・トレーズ本拠地
「…で?お前らは商品を逃しただけではなく…只人ごときに軽くあしらわれたのか?」
プルオーグの中でも一際大きいそれは戻ってきたプルオーグたちに詰問を続けていた。帰ってきた5体のうち3体はすでに動かなくなってしまっていた。
「も、申し訳ありません…!し、しかしリリィ様!プロディのやつが!」
話を振られたプロディと呼ばれる弓を使うプルオーグに一際大きなリリィが目を向けた。
「…やつらの中にリザードマンがいました。覚えがあるでしょう、ジェバスの村の…巨竜。」
それを聞き、リリィはニヤリと笑った。
「ほぉ、戻ってきていたのか…龍人族に最も近いというあの巨竜が…!」
リリィは咥えていた骨でできたパイプを離し、煙を吐き出した。
「逃がした商品と邪魔をした只人の連中、そして巨竜…今すぐに準備に取り掛かれ!!発見次第ジェバスへ向かえ!!何としてでも手がかりを掴んでみせな!!」
大きな洞窟の中で響くリリィの声に呼応するようにプルオーグの叫び声が響いた。
-翌日
「はふぅ、おはようございます…。」
翌朝、二番目に起き上ってきた由那が眠そうな目をこすり声をかけた。周りに目を向けるとスイが慌てた様子でバタバタと動いていた。
「あ、ああ、ユナ…!アダチさんが…!いません!!」
「え?」
一気に冴えた目を開き、周囲を見渡すとそこには亮介とジャバの姿がなかった。
「ああ、ああ…どうしよう…!!アダチさん…!私は…!!」
亮介がいないことで強い不安を感じたのかスイの呼吸が乱れる。当然由那も焦ってしまう。
「…何よ…朝からうるさいわねぇ…。」
最後に起きてきた姫乃もこの騒ぎを聞きつけ目を覚ました。起き上がった瞬間に由那とスイに詰められ姫乃は思わずたじろいだ。
「な、何?どうしたのよ!?」
「足立さんが…!!いないの!!」
少し間を置き言葉を理解した姫乃が大きな声を上げた。
「な、なんで!?どっかにメモとか無いの!?」
姫乃の言葉に由那がそれらしいものを探し回ったがついには見つからなかった。
「どうしよう…もしかして私たちの代わりに…!」
「私のせいです…!アダチさんに迷惑を…!!」
不安に震える二人を両脇に抱え、自身の震えを何とかこらえる。
「大丈夫…二人は私が守るから…!あいつの分まで…守って見せるから!!」
「…何勝手に殺してんだ?お前ら。」
「「「ひぃいや――――――――――!!?」」」
突然かけられた声に三人は一斉に悲鳴を上げた。
「…ッるせぇな…!」
「あ、足立さん!!?」
話を聞くと二人は朝ごはんになるものを探しに行ってくれていたらしい。話をしている間にスイは亮介に抱き着き大きな声で泣き出していた。由那と姫乃も亮介の安心感からか思わず駆け寄っていた。
「なんか…わっし忘れられてません?」
寂しそうなジャバの肩を叩く者は……誰も現れなかった。
「とにかく、次からは一言断ってから行きなさいよ?ったく…。」
「…わかったよ。」
最低限の報連相のことを伝え、話は終わった。
「アダチさん…スイを置いていかないでください…。」
「…わかったから離れろ…!」
体をよじらせたがスイが開放することはなかった。
「さて、足立たちが取ってきたご飯もらってもいいかしら?私もうおなかペコペコで…。」
姫乃が声をかけると亮介とジャバが取ってきたものを広げた。そこにはウゾウゾと蠢く幼虫の姿があり、それを見るなり由那と姫乃は固まってしまった。
「ああ、ジャバに聞いて食えそうな虫を――」
「「いやぁぁぁぁぁ!!!」」
二人の叫び声に洞窟が震えた。捕まえてきた幼虫たちは放り出され、地面に着くなり一目散に地面の中を目指し穴を掘り始めた。
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