ジェバスの村

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ジェバスの村

 「うお、只人や!」  「おーい!只人や!こっち来てみぃ!」  「う、ジャバもおるぞ…帰ってきたんか…。」 村に入るとすぐに多くのリザードマンに囲まれた。スイはその迫力に亮介の後ろに隠れてしまっている。由那と姫乃はジャバの肩からそれらを眺めていた。  「ジャバさんって大きいんですね…。」 俺が思っていたことを由那が声に出した。亮介たちを取り囲んでいるリザードマンは亮介と近い体格をしており目線が近かった。  「ああ、わっしはちっとばかしでかいんすよ。生まれつき。」 いわゆる突然変異の類らしい。人間にもあることだから特に不思議なことというわけではない。  「で、目的の野郎はどこにいる――」  「ちょっと待って!!」 早速魔法に詳しいというリザードマンに会おうとしたところで姫乃のいつもの叫びが間を割った。  「…耳元で叫ばんで…ください。」  「ご、ごめん…ってそうじゃなくて!いや、そうじゃないでもないんだけど…とにかく!!先にご飯よ!!ごーはーんー!!」 姫乃がグイッとジャバの顔を引っ張った。  「好き嫌いするからっすよ…いだだだだ!」 ジャバが呟くと由那がジャバの左右に伸びた小さなナマズのような髭を引っ張った。  「虫は…やなんです…!」  「わかりやした!わかりやしたから!!ルコットの姐さーん!!姐さーんいる!?」 ジャバが声を上げると群集の中から甲高い老女の声が飛びぬけた。  「久しぶりに戻ってきたと思ったら…相変わらずやかましいねぇ~。」 リザードマンの中ではかなり小柄で立派な髭を生やした老女はため息をつきジャバに着いてくるように言った。  「今日はお金、持ってんだろうね?」  「きょ、今日は持ってるって!」 態度からして、いつも払ってないのだろうか。その会話に四人は一気に冷や汗をかいた。  「あの、おばちゃー」 キッと鋭い眼光を向けられたことで姫乃が口を噤んだ。  「っと、お、お…ねぇさん?」 そう言い直すとさっきまでに眼光が嘘のように消え、ルコットはニコリと笑みを浮かべた。  「なんだい?只人のお嬢さん。」  「えっと…私たち実はお金をあまり持ってなくて…」 そう言いかけたところでルコットが手をひらひらと振った。  「ええよぉそんなん。こいつに払わせたらええがな。」 ジャバを指さすとジャバはその指を避けるように左右に動いた。それはもう機敏に。  「ツケも合わせて金貨5枚な。」  「ちょ!そんな持ってないって!!」 どれだけ無銭飲食を繰り返しているのだろうかこのトカゲは。とにかく俺たちの分は俺たちで何とかすべきなのかもしれない。  「おう、ババァ。」 その瞬間四人の顔が強張る。ジャバは下あごが地面に着きそうなほど伸びている。  「小僧…今なんと…??」 ルコットの迫力に一切の恐怖心を抱かない亮介はそのまま続けた。  「あ?ああ、こいつに入ってるもんで売れそうなもんは――」 とカバンに目を向けていると突然強い殺気を感じ亮介は上体を逸らした。するとお玉が風切り音を鳴らし、眼前を通り過ぎた。  「な、なんだ!?」  「今!ババァといったか!?」 ルコットの二発目が返ってくる。今度は頭を下げそれを回避した。亮介はそのまま足を前に出しお玉を蹴り飛ばした。  「な…!!」 今度は腰につけた包丁に手をかけようとするルコットにジャバが割って入った。  「あ、姐さん落ち着いて!!」 身体を掴まれルコットはやっと止まった。  「あ、足立も謝んなさいよ!!」 姫乃が亮介をずいっと前に押し出した。  「おいおい…!」 亮介は大きなため息をついたとおもうと今度はニッと笑みを浮かべた。  「謝るわけはねぇが…確かにあんな動きができるババァはいねぇ…そこは訂正しておく。」 そういうとルコットの目の色が元に戻った。  「ふん、素直に謝らんかい…まぁ、わっしのお玉を一度だけでなく二度も回避したのはお前さんが初めてや。小僧、名は?」  「足立…亮介だ。」 フッとルコットは笑い返すと踵を返し歩を進めた。  「そうか…だば小僧で十分やな。」  「けっ、ババァが…好きにしろ。」 亮介は足でお玉を蹴り上げそれを掴んだ。何とかなったような雰囲気に四人はため息をつき、二人の後を追った。
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