ジェバスの村

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 「はぁー、久しぶりに生を実感したわ。」  「私もう食べられません…。」 お腹がいっぱいになった姫乃と由那は背もたれに体を預け、お腹をさすった。スイは癖になっているのか散らばった食器を重ねまとめていた。  「ふむ、魔法に詳しいやつねぇ…そんなんこの村におったかいな?」 亮介が尋ねるとルコットは首を傾げた。  「ジームリィさんすよ。あの人、よぉ色んなとこ行くから魔法に詳しいでしょう?」 正面のキッチンで皿を洗いながらジャバが声を出した。 ルコットがギロリと睨むとジャバは慌てて視線を落とした。  「ジームリィ…まぁこん村で言ったらそんくらいか。」  「確かジームリィのやつ今おらんかったんちゃう?」 こちらの話を聞いていたリザードマンがそう言った。  「どこに行ってるの??」 姫乃の質問にリザードマンは首を傾げた。  「さぁな。詳しいことはブラッジのやつに聞いてくれ。」 机のご飯を平らげたリザードマンが立ち去ろうとするとルコットがそれを止めた。  「あんたなんか言うことないんかい?」  「は?ツケはないやろ?」  「こん子らみたいに作ってもらったことに感謝せんかい!!」 由那たちを指差しながらルコットは大声を上げた。  「え、あ、美味かった!ありがとうございました!!」 慌てて頭を下げ、リザードマンは店をあとにした。フンっと鼻を鳴らしルコットは厨房へと向かった。  「…ブラッジ(さっきの奴)の元へ行くか。」 席を立った亮介に続き、由那が立ち上がった。  「あれ、どうしたの?姫乃ちゃん、スイちゃん。」 間を置いても立ち上がらない姫乃とスイに由那が声をかけた。  「すみません…ちょっとお腹が…痛くて…。」 久しぶりに多量の食べ物を胃に入れたからかスイはお腹を押さえ、トイレを向かった。間も無く姫乃のお腹からも大きな音が響いた。  「わ、私もトイレ…!」  「ブラッジさんたちの家はこっちっすよ。」 姫乃とスイを置いて亮介たちはジャバについてブラッジの元へ向かっていた。亮介たち只人が珍しいのか自然と視線が集まる。  「あ、足立さん…。」 集まる視線に恐怖を感じたのか由那は体を縮め亮介の影に隠れた。  「…チッ!」 亮介が睨みつけると視線を受けたリザードマンたちは慌てて目を逸らした。  「…あいつ帰ってこれたんかい…。」 不意に耳に入ったその言葉に亮介が視線を向けた。  「ブラッジの奴が相当奥まで…あっこから帰ってくるとはな。」  「あの只人ども…うお!?」 ついに亮介の視線に気づいたリザードマンたちはそそくさと姿を消した。  「(…今のはジャバ(こいつ)のことか…?)」 さっきの言い方を聞く限りジャバがあの森にいたのは偶然ではない…のだろうか。もしそうだとしたら…。  「着きましたよ。ここがブラッジさんの家です。」 そんなことを考えているといつの間にかブラッジの住む家に着いていた。  ブラッジの家はこの村の中でも一際大きく、まさに旅人が住んでいる家らしく多種多様な文化の置物が家を取り囲んでいた。  「さてと…」 亮介たちが家に目を向けている間にジャバは家を囲む塀に近づいた。  「うわ!なんですかそれ!?」 ジャバの行く先を目で追った由那が思わず声を上げた。見ると塀の上にカエルのような生物がどっしりと腰を下ろしていた。由那の声に構うことなく、それに向かってジャバが拳を振り下ろすとカチャッと小気味いい音がなったかと思うと  「ルス!ルス!ソンチョーのイエ!ソンチョーのイエ!」 と声を上げた。それを聞きジャバは頭をかいた。  「やー残念、ブラッジさん今はおらんようですわ。」  「そうか。なら出直してー」  「あの!!」 亮介の言葉を遮り由那が身を乗り出した。  「な、なんですか…この生き物は…!」  「おい…!邪魔ー」  「すっごくかわいいですーーー!!!」 由那が腕に力を込めるとクキッと軽い音が鳴り、亮介の首が90度に曲がった。  「…いっ!?」 今の自分の状況をついに理解すると亮介はその場にうずくまった。その様子に言葉を失ったジャバに由那が再び尋ねると大きく体を震わせた。  「あ、あーこいつはフクロッグちゅー生き物です!今みたいにわっしらの声を真似てくれるんで連絡とかに便利なんすよ!!」  「へー!いいなぁ…。」 由那の指を咥えて欲しがる様子を見てジャバが  「この近くにフクロッグが獲れる池があるんすけど、行きますか?」 と尋ねた。二つ返事に行きたいと答えた由那を連れ、ジャバはフクロッグの生息する池へと向かった。チラリと亮介に目を向けると首が90度曲がった亮介が青い顔をしながら気をつけろという視線を送った。  1人先に戻った亮介はルコットの店の扉を開けた。  「あら、早かったのね…って、あんた首どうしたの?」 談笑していた姫乃が帰ってきた亮介を見るなり、曲がった首のことを尋ね、スイはオロオロと慌てた。亮介はすぐに答えることなく静かに2人のテーブルについた。  「…お前のダチ…ヤベェな。」 そう一言言い放つと姫乃は何か察したようにやれやれとため息をついた。
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