7人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい!本当にわかってんのか!?」
「待って…今はここだから…ここよ!ここを曲がれば!!」
突き当たりを右に曲がるとルコットの店が顔を覗かせた。
「…ー!!なんなのよ!!この地図は!!」
30分近く同じ場所をぐるぐると回り、我慢の限界を迎えた姫乃はついに大声を上げた。
「だから言ったろ?ぜってぇわかんねぇってよ。」
「…。」
確かに足立がジャバから貰ってきたという地図は地図とは呼べなかった。方角もなければおよそ道と呼べる線は有耶無耶と、解読は至難の業だ。
「(でも、あんなこと言った手前…無理でしたとは言えないわ…!)」
ー30分前
「あの…アダチさん?あとどのくらいですか?」
10分近く歩いた頃スイが尋ねた。が、亮介は答えなかった。不審に思った姫乃が
「あんたもしかして分かんないんじゃないの?」
と尋ねたが、依然として亮介の反応はなく黙って地図を凝視していた。まさかとは思うけど、こいつ西と東がわかって無いんじゃ…?一瞬頭をよぎった考えを払うように手を動かした。しかしその考えは満更でもないようで亮介はしきりに地図を回していた。
「(こいつ…!やっぱりわかってないんじゃ!?)ちょっと待って!」
声を上げると亮介の足が止まった。
「…なんだ…!?」
瞬きを忘れていたのか亮介が血走った目を姫乃に向けた。視線の先には何か勝ち誇ったかのような表情を浮かべる姫乃が手を出していた。
「しょーがないから私が見てあげるわ!」
フンと鼻を鳴らす姫乃に亮介は言葉を失っていた。
「最初っから思ってたのよねー、あんた地図読めないんじゃないの?」
姫乃が煽るように言うと亮介は大きくため息をついた。その間もスイは度々2人に視線を送りながらじっとしていた。
「…ああ!さっぱりだ!だがなー」
「やっぱり!!ほら貸しなさいよ!」
亮介の言葉を遮り、半ば強引に地図を取り上げた。
「誰にでも得手不得手はあるから安心しなー」
言いかけたところで目に入った地図に思わず言葉を失ってしまった。
「…だがな、これは誰にもわかんねぇと思ったが…んだけ自信あんなら大丈夫だよな?」
さっきのお返しと言わんばかりに亮介が煽った。しかしその言葉は既に届いていなかった。
「…マカセナサイ…。」
消え入りそうな声で姫乃がぽそりとこぼした。
そして今に至る。
「おい、もういいからババァに聞きに行こうぜ。っておい!」
亮介が声をかけたものの姫乃はプライドが邪魔しているのか聞く耳を持たない。
「…ったく。行くぞ。」
スイに声をかけルコットの店へ向かい歩き出した。
「え?でも…」
「ほっとけ。そうなったらどうしようもねぇよ。白川に任せるのがベストだ。」
スイは迷った挙句、亮介の後につき店へ向かった。
「…ほれ。あんたら出てったり帰ってきよったり忙しいやっちゃな。」
「まぁな。」
ルコットに出されたお茶を啜り、ふぅとため息をついた。結局ルコットに諭され素直にジャバを待つことにした。
「にしてもあんたら別の世界から来たってほんまなんかい?」
突然のことにピクリと一瞬動きを止めたがすぐに動き出した。おおかた予想はつくがどうせ上宮が話したのだろう。
「…不本意だけどな。…正直、今でも現実か戸惑う。」
それは思わずこぼれた本音だった。言ってからハッと気づいた亮介は湯呑みで口を塞いだ。
「(上宮のこと言ってられねぇな…。)」
「不本意ってことは…来たくなかった…ですか?」
亮介の言葉に反応したスイが尋ねた。地球にいたときとこの世界。亮介の頭に2つの世界の映像が流れた。
「ー…あんたが!!生まれてー」
……
「アダチさん?」
「小僧!どしたんや?」
2人の声で散漫した注意が戻る。亮介は口につけた湯呑みを傾け全てを飲み干すと一息つき答えた。
「まぁ…来たくなかったってことも…無いのかもな。」
その答えにスイもルコットも首を傾げ、頭を回した。
「(…俺は…なんだ?何のために帰るんだ?)」
あの世界に未練は…。
最初のコメントを投稿しよう!