プロローグ

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プロローグ

 朝8時を回った頃…俺、足立亮介(あだちりょうすけ)は河川敷に呼び出され、たった今到着した。呼び出された理由はおおかた予想がつく。  「…33か。」 遠目である程度の人数を数えた。なかなかの人数ではあるもののどこかワクワクしている自分がいる。  男たちは俺を見つけるとすぐに取り囲んだ。  「よぉ足立ぃ!よくものこのこ現れたなぁ!!」 リーダーらしき男がニヤリと笑った。  「先週は俺の弟が世話になったようだなぁ…。全治2週間だとよぉ。どう落とし前つけてくれんだコラ!?」 ワッと前に出た男が胸ぐらを掴みぐいっと手繰り寄せようとした。しかし亮介を動かすことができず、だんだんと顔が赤くなってゆく。周りから囃し立てられるもついに1ミリも動かすことは叶わなかった。  「テメェら!笑ってんじゃー」 亮介から目を離した瞬間、顔が吹き飛ぶ程の衝撃が走った。間も無く血の味が口の中に広がる。  「ゴヴァァァ!」 思わず倒れ込み口の中に溜まった血を吐き出した。その中には歯も混じっていた。どうやら殴られた右側の歯がほとんど取れてしまったらしい。  「おい、俺は急いでんだ。あんまり手間かけさせるんじゃねぇ。」 ため息混じりにそう言うと周りにいる男たちが一斉に飛びかかった。  「死ねや!足立!!」  どれくらい時間が経っただろうか。おそらくすでに遅刻だろう。  「ぐっ…ァ…」  「いてぇよぉ…」  「バケモンかよ…」 33人の男たちはそれぞれ的確に急所をつかれ、誰一人として立ち上がるものはいなかった。  亮介は河川敷より少し奥の川岸で血のついたシャツを洗っていた。  「…チッ!こりゃ遅刻だな…。」 ガシガシと乱暴に擦るといつの間にかシャツは2つに別れてしまっていた。どうやら袖がちぎれてしまったようだ。これではまた怒られる。  「はぁー、もういいか。どうせ遅刻だし。」 それを投げ捨てドカリとその場に寝転んだ。  「いえ、まだ走れば間に合うんじゃないですか?」  「そうか?…今何分だよ?」  「えっとー、21分です。」 自然とつながる会話にだんだんと疑問が浮かぶと、突然聞こえたその声に思わず体を起こした。視線を向けると少し驚いた様子をした女が犬を抱えて隣に座っていた。  「…びっくりしました…。」  「そりゃこっちのセリフだ。何者だお前は。」  「えっと…。」 女は犬を顔の前に持ってくると  「僕はこの前助けていただいた犬だワン!あの時のお礼を言いに来たんだワーン!」 と高い声で言った。亮介は呆れた様子でため息をついた。  「…覚えがない。」  「私は覚えてます!」 犬を顔から離し、キリッとした笑顔で答えた。  「先週… ー先週  「ギャハハ!!おら、しっかり狙えよ!!そのきめぇ犬っころさっさと潰してやろうぜ!!」 住宅街のど真ん中で不良が病気で顔の(ただ)れた子犬に的当てゲームと称した遊びを行っていた。  「黙れ!お前が1番外してるくせに…よ!!」 ヒュンと風を切り投げた石は子犬の横腹に当たった。不良たちからおおっと声が上がる。  「おいほらど真ん中だぜ!!見たかよ!!」 再び笑い声が起こり、次の男が立った。  「じゃあ俺は…頭!!」 男が放った石は犬の頭上を超えた。  「お、おい…誰か止めた方が…。」  「かわいそうね…。」 周りからヒソヒソとそう言う声が聞こえるも、動こうとするものは誰一人として現れなかった。  「ちょ、ちょっと由那!?何してるのよ!!」  「止めないと!!あの子が死んじゃいます!」 由那は子犬に向かって足を進めようとしたが友達である姫乃に止められた。  「相手は不良よ?何されるかわかんないじゃない!!」  「でも!」 そんなことを言っていると地面に石のぶつかる音が響く。  「おーい!そろそろ当てろよ!!」  「もうこれでいいだろ!」 次の男は今までより大きな石を手に持ち、子犬の前に立った。  「そりゃズルだろ!!」 再び笑いに包まれ、ついに我慢の限界に陥った由那が姫乃を振り払おうとすると当然横から亮介がヅカヅカと現れた。  「げっ!足立だ…!」 姫乃が思わず声を出した。それは足立亮介がここら一帯で有名な不良だったからだ。気だるそうに現れた亮介は子犬と男の間に割って入ると子犬に手を当てた。  「…は?お前何やってんの?」  「まだ息はあるな。」 亮介は子犬を抱えると自身のシャツと共に道の端へ置いた。姫乃を振り払った由那が子犬に駆け寄るとそれを抱き上げた。  「私、病院に連れて行きます!」 亮介にその声が届いたのかわからないが由那はそのまま駆け出し、姫乃はその後を追った。  「おいおい、何してくれてんだよ。お前足立だろ?」  「ちょっと名ぁしれてるからって調子乗ってんな!」  「せっかく害虫駆除しようと思ったのに…よ!!」 手に待った大きな石を亮介に向け投げつけた。亮介はそれを避けるとそこに落ちていた石を拾い上げ、男に投げつけた。それは見事に男の顔にヒットした。  「ゴッ!?」 男はたちまち倒れ込み、涙を流しながら顔を抑えた。  「テメ!コラ!!」 それを皮切りに不良たちは亮介に飛びかかった。  その後誰かが通報した警察によってその場は取り押さえられた。亮介はそのまま連行され、その場にいた不良たちは一人残らず病院へ搬送された。 ーって、助けてくれたんですよねー!」 と子犬に話しかけると子犬は元気よくワン!と答えた。  「…人違いだ。」  「でもさっきあの人たちから足立って言われてました!」  「…別の足立だ。」  「でもほら!」 由那は鞄から前に子犬を包むのに使ったシャツを取り出すとさっき投げ捨てたものと比べた。  「同じ、です!」 どうだ!と言わんばかりの表情に思わずたじろいでしまう。  「あ、これ返しに来たんでした。はい、あの時のシャツです。」 亮介はそれを受け取ると袖に手を通した。  「(まぁ、これでババァからどやされることもないな。)正直、シャツは助かった。」  「いえいえ、お返しできてよかったですー。」 子犬に顔を舐め回されながら、由那が答えた。    時刻は8時半を過ぎ、すでに遅刻が確定した。亮介はどう時間を潰そうかと河川敷から離れ考えていた。  「…つか、どこまでついてくるんだ?お前。」  「あ、えと、お気になさらず!」 10歩歩いて振り返る。10歩歩いて振り返る。その度由那は気まずそうに目を逸らした。  「...ねぇ見て?あんな小さい女の子にカツアゲかしら?」  「さっきからずっとうつむいたままだし絶対そうよ!」 ひそひそと話す周りの声が耳に入る。亮介がギロリとにらみつけるとそそくさとその場を去ってゆく。  「はぁ、いい加減にしてくれ。このままじゃ俺が悪者みたいだろ?」 そういうと観念したのか由那は本当のことを話した。  
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