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第一話:オートガールに採用される
大正十年。
風倉ひゐろは、高等女学校を卒業したばかりの十八歳。
東京府本郷區で、家族と暮らしている。
両親と二人の兄、そして女中がおり、実家は下宿を営んでいた。
ひゐろは、高等女学校在学中から女性雑誌『女性読本』を愛読しており、おしゃれにも関心のある女の子。
『女性読本』の職業婦人特集に感化され、ひゐろは〈職業婦人〉への強い憧れを抱いていた。
先日、職業婦人の花形の一つ女性車掌(バスガイド)の筆記試験と面接を受けた。
その結果通知を、首を長くして待っていた。
試験の日から、一カ月ほど経ったある日。玄関から、
「東京市街自動車様から電報です!」
という電報配達人の声がした。
臙脂の銘仙を着たひゐろは、玄関に出ていく。
「はーい!女性車掌の結果ですね。ずっと待っていたんです。ありがとうございます」
ひゐろは、即座に電報を広げた。
―――バス オウダンデキズ
「…ああ。不採用か。残念……」
と、ひゐろは落胆した。
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