126人が本棚に入れています
本棚に追加
五分後、ひゐろは風呂敷を抱えて、旅館を営む男の車の元に戻ってきた。
「風呂敷を五つか。ずいぶん荷物が多いな」
「車に入るでしょうか」
「乗せなきゃ、しょうがないだろう」
「お手数をおかけします」
こうして車の中に何とか風呂敷を押し込み、旅館を営む男とひゐろは京橋の旅館を目指した。
京橋は、銀座への入口にあたる。
旅館は京橋川を抜けたところにあり、木造三階建で二層の望楼がついていた。
すでに、陽が落ちている。ガス灯が点灯し、趣のある風情だ。
「どうぞ。寒いだろうから、中に入ってくれ。……おーい!お客さんだ、通してやってくれ!」
中から、仲居さんがやってきた。そして、帳場にいる男も入口にやってくる。
「突然ですが、お部屋をお借りしたいのです。年末で恐縮ですが空いていらっしゃいますか」
ひゐろは、単刀直入にそれを伝えた。
「……本日、ですか?」
帳場にいる男は、突然の申し出に驚いた。
そして、たくさんの風呂敷を抱えているひゐろを、まじまじと見た。
「はい。本日から一週間ばかり」
「……本日から一週間!」
男は驚いて帳場に行き、眼鏡を上げて台帳を広げた。
最初のコメントを投稿しよう!