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「……幸い、本日は一部屋だけ空いております。ただし明日からは、満室ですね」
「……そうですか。年末ですからね」
ひゐろが落胆した顔をしていると、旅館を営む男が
「そうだ!先月、仲居が一人辞めたので、布団は一つ空いているはずだ。明日以降は、仲居部屋にいてはどうか」
そばにいた仲居が、驚いた顔をする。
「……ご主人様。こちらのお客様を、仲居部屋に通すのでしょうか」
「あぁ。どうやら、貸家を探しているらしいから。今は不景気でしかも年末だから、行き場を失うのも気の毒だろう。雪が降る可能性もあるし」
仲居は、なぜゆえにという顔をしてひゐろを見た。
「明日からの寝泊まりは、仲居部屋でも良いかい。五人部屋だ」
旅館を営む男は、ひゐろに提案した。
「もちろんです!」
「仲居部屋といえども、宿代はいただくよ。今日の部屋の半額だ」
「ありがたいです。恩に預かります」
ひゐろは深々と、頭を下げた。
「……それでは、本日のお部屋にお連れいたします」
仲居はひゐろを連れ、二階へ通した。
「こちらがお部屋です。どうぞ」
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