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朝食を終えると、ひゐろは早速仲居部屋に行った。
一階の入口から最も離れた、奥の部屋だ。
複数の女たちが就寝している部屋のせいか、女性特有の艶かしい匂いがする。
襖を開けると布団に潜っている女が二人ほどおり、寝息を立てていた。
ひゐろは風呂敷の荷物を置いた後、そっと立ち去ろうとすると、
「……誰? 新しい人?」
と布団から声がした。
「いえ、一週間ばかりこちらに世話になる者です」
その女は布団から起き出し、おもむろに綿入れに袖を通した。
「昨日、小夜から聞いたわ。あなた、ここの主人の妾なの?」
「……小夜さん?あぁ昨日の仲居さんですね。妾のわけがありません!妾なら、仲居部屋に私を置かないでしょう。『貸家を探しているから』とご主人に事情を話し、ご親切にしていただけにすぎません」
「ふうん。まぁどういう事情か知らないけどさ。ここの主人は、妾も多いみたいだから」
女はひゐろの顔を見ず、柘植の櫛を出して寝ぼけ眼で髪を整えはじめた。
「短い間ですが、よろしくお願いします」
ひゐろはそう告げて、そそくさと女中部屋を出ていった。
再び帳場の前を通り、ひゐろは男に声をかけた。
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