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「この通りを抜けたところに、大きな屋敷がある。そこが松井久右衛門さんのお屋敷だから、直接訪ねたらいい」
「ありがとうございます」
道を歩いていると、一眼でひゐろは松井久右衛門の屋敷だとわかった。
土塀に囲まれた広い敷地、そして土蔵造の主屋、本蔵、米蔵、金蔵などがある。
おそらく百年以上前に、造られたものであろう。
この家は先祖代々、大地主であったことが見てとれた。
ひゐろはその屋敷の大きさに圧倒されたが、引き返すわけにはいかない。
奮い立たせて、敷地の中に入っていった。
庭には美しい水を湛えた池があり、飛び石がある。
その向こうに、庭木を切っている職人が作業をしていた。
「あのう……松井久右衛門さんのお宅ですか。お持ちの貸家をお借りしたいのですが、どのように手はずを取ればよいのでしょうか」
「俺にはわからないから、ここの人を呼んでくるよ」
植木職人は、主屋に入っていった。
しばらくすると、三十代と思しき一人の男が主屋から出てきた。鷹揚な態度で、仕立ての良い着物を召している。松井久右衛門の息子であろうか。
「……少し話を聞いたが、うちの貸家を借りたいということかね?」
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