第十九話:霙まじりの日に

2/4
前へ
/189ページ
次へ
「この通りを抜けたところに、大きな屋敷がある。そこが松井久右衛門さんのお屋敷だから、直接訪ねたらいい」 「ありがとうございます」 道を歩いていると、一眼でひゐろは松井久右衛門の屋敷だとわかった。 土塀に囲まれた広い敷地、そして土蔵造の主屋(おもや)、本蔵、米蔵、金蔵などがある。 おそらく百年以上前に、造られたものであろう。 この家は先祖代々、大地主であったことが見てとれた。 ひゐろはその屋敷の大きさに圧倒されたが、引き返すわけにはいかない。 奮い立たせて、敷地の中に入っていった。 庭には美しい水を(たた)えた池があり、飛び石がある。 その向こうに、庭木を切っている職人が作業をしていた。 「あのう……松井久右衛門さんのお宅ですか。お持ちの貸家をお借りしたいのですが、どのように手はずを取ればよいのでしょうか」 「俺にはわからないから、ここの人を呼んでくるよ」 植木職人は、主屋に入っていった。 しばらくすると、三十代と思しき一人の男が主屋から出てきた。鷹揚(おうよう)な態度で、仕立ての良い着物を召している。松井久右衛門の息子であろうか。 「……少し話を聞いたが、うちの貸家を借りたいということかね?」
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

114人が本棚に入れています
本棚に追加