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第二十話:ガス灯が灯る、時計台の前で
「……ちょっとやめなさいよ」
小夜が、仲居の一人を制した。
仲居部屋には小さな火鉢があり、仲居の数人はそれを囲むように座っている。
「こちらの女性は、仲居じゃないわ。たまたまこの部屋にいるけれど、お客様なのよ。失礼があってはいけないわ」
「……お客様?なぜここに?」
ひゐろはいまだに、仲居たちに話が通じていないのだなと感じた。
「旅館の主人のお知り合いのようなの。ただ年末だから、お部屋が取れなくて。それで、急遽ここにお越しになっているだけなのよ」
小夜の一言に、仲居は皆沈黙した。
「帳簿を拝見いたしました。確か、ひゐろさんとおっしゃいましたね。食事は、お召し上がりになりましたか?」
「ええ、先ほど」
「そうでしたか。それでは、お茶はいかがでしょうか」
「ありがたいですね。遠慮なくいただきます」
小夜は、火鉢からやかんを下ろした。そして急須にお湯を注ぎ、湯呑みに入れたお茶をひゐろに差し出した。
ひゐろはお茶を飲みながら、仲居部屋を見回した。
古びた布団が人数分、隙間なく敷かれていた。
布団の周囲には、着物の端切れでつくったおてだまや、絞りかのこの手絡などが落ちている。
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