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「立場というものは、変化するものです。かつて仲居として働いていた同僚が八百屋に嫁いだのですが、私がその八百屋に買い物に行けば同僚ではなく客になるでしょう。世の中は往々にしてそういうものですから、今ある立場で物事を考えてはならないのです。もっともひゐろさんは仲居部屋にいるだけで、同僚ではなくお客様ですし」
ひゐろはくすりと笑い、
「……私も接客業をしているので、小夜さんのおっしゃりたいことはよくわかります。社会は立場で繋がっているけれど、いつ状況が変わるやもしれません。どんな方に対しても横柄な態度にならぬよう、私も気をつけなくては」
「本日も、お出かけでしょうか。もしよろしければ、旅館にある深沓をお貸しいたします」
「……それは、助かります!」
その後、ひゐろは八時頃に旅館で朝食を食べ、九時に借りた深沓を履いて旅館を出た。
京橋では雪で立ち往生する車があり、立坊が後ろから車を押していた。
「エンジンがかからない。とても竹川町の停車場までは、無理ですよ」
という声がした。
その様子を見てひゐろは、“オートガールの仕事は、しばらく休みになるかもしれないな”と思った。
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