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ひゐろは今日も、下谷區をあたることにした。
向かったのは資産家一覧に掲載されている、実業家・岩田喜八郎の邸宅である。
邸宅は下谷區池之端にあり、英国人設計の瀟洒な建物。岩田喜八郎の祖父が明治の頃に建てており、邸宅は広く知られていた。もちろんひゐろも、彼の邸宅を知っていた。
難点は、本郷區にあるひゐろの実家に近いこと。これから一人暮らしをはじめたいひゐろにとってはできるだけ、実家から遠い物件でなくてはと考えていた。
それでも岩田喜八郎であれば、本郷區や下谷區以外にも貸家を持っているのではないかとひゐろは期待した。
ただ今日は雪が積もっていることもあり、京橋から乗った市電は遅延気味であった。また深沓を履いているといえども、着物姿のひゐろは歩くのも難儀で、岩田喜八郎の邸宅に着いた時には、正午前だった。
「ごめんください!どなたかいらっしゃいますか?」
ひゐろは門扉の前から何度か声を上げてみるものの、雪が降っていたということもあり、誰も出てこない。十五分ほど待っていたものの、あまりの寒さに引き上げることにした。
ーーーさて、これからどうするか。
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