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「そうかもね。毎日、人の履物を預かり、返すだけの単調な毎日よ」
珠緒はそう言うと、お茶を飲んだ。
しばらくすると、あんみつが二つ運ばれてきた。
「きっと、百貨店にはいろんな方々がお越しになるんでしょうね。資産家も役人も、女学生も」
「下足番の先輩が話していたわ。景気が良い頃は、下駄の鼻緒をきれいに拭いたただけで、百圓もらえたことがあったって」
「……百圓!土を拭いただけで!」
ひゐろは驚いて、むせてしまう。
「大丈夫? 今じゃ、考えられないでしょう?
……話は変わるけれど、先日ひゐろのお母様が日舞の教室へお越しになって、『大変恐縮ですが、こちらをやめさせていただきます。不束な娘で、申し訳ありません』とおっしゃっていたわ」
――ーお母様が私の代わりに、そんなことを。ひゐろは驚いた。
「……実は私、本郷の家を出たの」
「えっ!どうして?何があったの?」
「ううん。ただ家にいると、下宿に孟さんがいないという現実を、まざまざと突きつけられているような気持ちになるの」
「……そうか。それは、そうよね」
珠緒は再び、お茶を飲んだ。
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