第二十話:ガス灯が灯る、時計台の前で

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「現実を受け止められるまで、時間が少し欲しくて。今は、とても消化できずにいる。私が未熟なのかもしれないけど……」 「それで良いのだと思う。ひゐろが好きにすることを、孟さんも願っていると思うわ」 ほどなくして、ひゐろと珠緒は甘味処を出て、別れた。 ひゐろは孟との想い出に浸りたくて、再び市電で銀座へ向かった。 銀座に着くとひゐろの左側を、黒い羽織を着て長尺の火棒を持つ男が通り過ぎた。夕暮れ時だから、これからガス灯をつけるのであろう。 ひゐろは時計台の前に立ち、目を閉じて深呼吸をした。 “……会いたい、孟さんに会いたい”と。 ひゐろが静かに目を開けると、そこには意外な人が立っていた。
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