CHAPTER帰り道

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CHAPTER帰り道

「お待たせ」 秋風に髪をなびかせながら彼が言った。 「お疲れ様」 “一緒に帰りたいから” そんなメッセージをもらって、学校帰りにコンビニに来た。 めずらしい。 「帰りにスーパーよって帰ろ」 「うん」 これもまためずらしい。 「だいぶ…っていうか急に秋らしくなったね」 確かにここ2.3日で急に夕方の風が冷たくなった。 「今年は紅葉狩りに行きたい!」 「何それ(笑)」 「だって去年は紅葉見ないうちに雪降っちゃったんだもん」 だもん…て。くすっと笑ってしまう。 でも確かに、紅葉の時期ってここ何年かあっという間な気がする。 「…!」 そんなことをぼーっと考えてたら、急に手をつながれて驚く。 「ん?」 彼を見上げた私に彼は不思議そうにした後にっこり笑う。 「今日久々にあんたのポテサラ食いたい」 わたしのことを『あんた』と呼ぶときの彼は機嫌がいい。 「しょうがないなぁ」 そう言いながら私は少し彼に寄り添う。 あったかい…。 思い出すな。 初めて彼に会った時。 もっと寒い日だったけど、 彼は私の手をしっかり握って引っ張ってくれた。 その手がどれほど力強く頼もしく安心できるものなのか。 わたしの心にしっかりと焼き付いている。 「…ありがと…」 「ん?なに?」 思わずこぼしてしまった私の声は、 彼にはしっかり届かなかったようだ。 「コロッケも食べたいね」 彼はニコニコで言った。 「えぇ?ポテサラなのに?」 「ダメ?」 「だっていも×いもになっちゃうじゃん」 「それ、ダメなの?」 「ダメじゃないけど」 「じゃ、コロッケは買って帰ろ」 嬉しそうな彼の横顔。 わたしは思う。 何度生まれ変わっても、私はこの人のそばにいたい。 そんで、何度だって好きになる。 「ねぇ」 「何?」 不意に彼が足を止める。 「俺、ずっとあんたと一緒にいるからね」 「え?」 「多分、俺どんな状況であんたにあったとしても、 絶対に好きになってたと思うし、どうやったって好きになってたと思う」 突然の発言に、顔がかぁーっと熱くなるのがわかった。 「な、何それ」 顔をそらそうとしたら、両手でほほを包まれる。 「あんたも絶対、俺のこと好きになると思うよ」 まっすぐに見つめられて、目が泳いでしまう。 「大丈夫だから。俺と一緒にいたら」 真剣なまなざしに私の目にも彼しか映らなくなる。 「だからずっと一緒にいるよ」 「わ、わかってるよ…」 「ふふ…」 ちょっと笑うと、また私の手をつないで歩きだした。 秋になると人恋しくなる。 前に彼がそう言っていた。 彼だって、寂しかったりつらかったりするときがあるんだろう。 その時に、そんな時にそばにいる人として私を選んでくれている。 そう思うと体の芯からあったかくなった。 「私も、」 「え?」 彼がもう一度とまって私を見る。 「私も、絶対あんたのそばにいるから」 そう言うと少し驚いた後、 「当たり前」 と言って頭をポンポンとしてくれた。 もう一度歩き出した私たちの後ろに、 同じように手をつなぐ私たちの影が伸びている。 秋の夕暮れは早い。 夜がその影をすぐに覆ってしまうだろう。 それでも私は怖くない。 彼の手をしっかりとつないで歩く、あきの帰り道。
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