CHAPTER花火

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CHAPTER花火

「いらっしゃいませぇー」 コンビニの自動ドアを抜けると、 涼しい空気といつもより疲れた彼の顔。 「もうすぐ花火始まるよ」 「…うん」 今日は町の花火大会だ。 あと数分で打ち上げが始まる。 河川敷の会場は、 酔いそうなほどの人、人、人。 花火より輝いてそうなその人たちの笑顔を横目に見ながら、 わたしはコンビニにやってきた。 それに引き換えコンビニ(ここ)は静か。 店員しかいない。がっらがらだ。 だけど店内BGMだけが、 夏を感じさせてくれる。 「行かないの?」 イジワルに笑う店員。 「…」 友だちはみんな恋人やゼミの仲間で河川敷へ向かった。 可愛い浴衣を着て、ヘアメイクも完璧。 きっと数分前まではこの店内も、 そういう人であふれていただろうに。 コンビニの外を駆け足で浴衣の女子が通り過ぎた。 ふとガラスに映る自分を見る。 半袖のシャツにダボパン。 「色けねーな」 「…っ!」 わたしだって今思い知らされた。 わかってるよそんなこと。 彼のことを恨めしくにらんでしまう。 ヒュー……ドンッ! 窓越しに花火があがったのが見えた。 「お、何気に特等席だよねコンビニ(ここ)」 窓の外の花火を私も見る。 レジを出る音がして、 店のガラスに映る私の少し後ろに彼の姿も映る。 「一緒に見れてよかった」 彼の小さいつぶやきが、 花火とBGMにかぶさる。 「…うん」 わたしも小さくそう返す。 「いらっしゃいませー」 近所のおじさんらしき人が入ってくる。 白シャツに甚平で、少し顔が赤い。 彼はレジに戻る。 わたしは雑誌の棚からガラスの外を眺め続けた。 「34番ちょうだい」 「ありがとうございます」 「あんちゃんも大変だなぁ、 でもこっからだと割と良く見えるもんな花火」 「ですね。ご褒美感あります」 「はは…、そりゃよかった。 でも彼女と一緒に見たかったんじゃねーの?」 「そうっすね」 「こんなおっちゃんと一緒でごめんな」 「いやいや」 そんな会話とともに、 おじさんがタバコをもって、 店を後にする。 「ありがとうございましたぁ」 彼の声が響いた後、BGMが少し途切れる。 「一緒に見れてるっちゅうの」 彼がつぶやきながらにやりと笑う。 店内はクーラーで涼しいのに、 ちょっと顔が熱くなるのを感じた。
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