CHAPTERアイス

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CHAPTERアイス

「いらっしゃいませー」 暑い夏の中をぬってたどり着いたコンビニ(天国)。 仕事とは言えクーラーの中で涼しい笑顔を見せる彼に、 小さな殺意が芽生える。 とはいえ、今はアイス。 コンビニには、 私たち同様、涼を求める人々がたくさんいた。 「私これにしよう」 「俺はこっち、やっぱ定番の氷でしょ?」 友だちは早速アイスを選ぶ。 わたしは—。 「あれ?あんたまた悩んじゃってる?」 アイスを買いに来たけど、 冷凍庫の横に張られた“スムージー”のシール広告に誘惑されている。 「わかるぅ。スムージーも捨てがたいよね」 ちょっと悩んだ末に、コーラルピンクの個体が入った容器を取り出す。 「ありがとうございまーす」 にやにやと私を見ながらレジを打つ彼から、容器を受け取り、 スムージーマシーンのボタンを押す。 何やらガタゴトと中身がかき混ぜられて、 きれいでものに液状化されていく。 「ありがとうございましたー」 営業用の笑顔を見せる彼の声を背中に、 コンビニを後にする。 同じ夏の暑さが襲い掛かるけど、 ストローから口に、そして喉を通り過ぎるスムージーのおかげで、 気持ちの軽さはだいぶ変わった。 涼しい。 アパートの部屋を涼しくして彼の帰りを待つ。 テーブルに広げた課題もだいぶはかどった。 カンカンカンカン…。 階段を豪快に上がってくる足音。 ガチャ。 「ただいまぁ」 ドアが開いて彼が勢いよく部屋に入ってくる。 「お疲れぇ」 ちらっと彼を見てまたすぐに課題に視線を戻す。 「はぁ、涼しいィ」 玄関でクーラーの風を少し浴びた後、 彼がこちらに近ずいてくる気配。 「ひゃっ」 突然ほほに当たった冷たい感覚に思わず声が出てしまう。 「はい」 私の反応にうれしそうな彼。 その手にはスイカアイス。 「食べな」 そう言って袋を開けて私の口もとにアイスを近づける。 「はい、あーん」 「…あー」 条件反射的に口をあくと、その中に参画のスイカの先端が入ってくる。 しゃく…。耳に届く自分の咀嚼音でもうおいしい。 「おいし?」 口に広がる冷たさにしゃべれなくて、こくりとうなずく。 「ふふーん」 そんな私の様子を見て、彼は満足そうに笑う。 そして、私の隣に「よっこいしょ」と座って、 テーブルに置かれた小さなクーラーボックスの袋の中から、 ソーダのアイスを取り出した。 わたしは彼から受け取ったスイカのアイスをしゃくしゃくしながら、 彼がアイスを袋から取り出す様子を眺めていた。 彼の喉が動く姿に妙にドキドキしてしまう。 「?これも食べたいの?」 「…あ、ううん」 彼から目をそらしたのに、 「はい、あーん」 ちょっと強引に唇に水色の氷が押し当てられた。 …しゃく… 仕方なく少し口に入れる。 「ふふーん」 「何?」 アイスを食べるわたしを見て、にこにこする彼。 その彼を見ていると 「あん」 と、わたしのスイカアイスを一口食べた。 「あ、」 「うま!俺も今度スイカにしよう」 ちらっと私を見てからテレビをつける。 彼に奪われたスイカアイスを少し見つめる。 アイスの皮の部分から、ポタンと緑の液体が指に堕ちた。 あわてて、自分のアイスをほおばる。 横でテレビを見ながら笑らっている彼。 きっと水色になっているであろうベロを思っておかしくなる。 「スムージーも食べたんだっけ?」 「…うん」 「おなかこわすなよ」 私の髪をわしゃわしゃとした。 「やめてよ」 「アイス溶けるよ、早く食べな」 クーラーの部屋にいてもちょっとづづ溶けていくアイスを、 2人でテレビを見ながら食べる。 夏もワルクナイ。
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