CHAPTERバレンタイン

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CHAPTERバレンタイン

今年もこの季節が来る。 友だちと一緒にデパートでチョコを見た後、 コンビニへ…。 「コンビニ限定は外せないっしょ」 そうだよね。 コンビニ限定のバレンタインチョコって、 最近はほんとに侮れない。 彼も言っていた。 『MODIVAのコラボチョコが人気なんだよね』 バレンタインは楽しい。 普段はお目にかかれないチョコが、 いろんな売り場にあふれている。 ちょっとお値段が張ったとしても、 この日は特別に自分へのご褒美! 「いらっしゃいませー」 お決まりの営業スマイル。 お客さんはレジ前の3人のお姉さんだけ。 私たちはバレンタインコーナーへ。 でも気になってレジの会話に聞き耳を立ててしまう。 「おにいさん彼女とかいないの?」 「いそうだよね?かっこいいもん」 「え?そうっすか?」 なんかデレデレしてない? 私は思わずレジをチラ見する。 かれの表情(かお)は見えない。 でも—。 ミニスカートから延びたすらっと長い脚。 ナチュラルにおろされたつやつやの髪。 はじけるような笑顔。 レジ前のお姉さんたちは3人とも、 キラキラして見えた。 わたしって…地味だな。 「お姉さんたちもきれいだし、モテそうですよね」 「えぇ、ほんとに?」 会話は盛り上がっている。 何となく、いづらくなって、 「ごめん私の欲しいのなかった」 そう友だちに告げる。 「そっか、じゃ私はこれだけ買ってくるから」 友だちはそう言ってレジに向かう。 私は反対側から店外に出る。 「ありがとうございましたぁ」 何も買ってないのに、背中に彼の声がかけられた。 知っている。 彼は私に出会う前から、 お客さんにチョコやプレゼントをもらったりしていた。 今日のお姉さんたちもきっと…。 「ただいまぁ」 唐突に玄関が開く。 「あれ?いないの?」 電気も付け忘れていた私。 「あ、いるじゃん」 電気をつけながら、彼が部屋に入ってくる。 手にはコンビニ袋。 …はぁ。 結構たくさん入ってるね…。 膝を抱いたままソファーに座る私。 卑屈だなぁ。 「今日ごめんね。レジ前こんでて」 そう言いながら袋からチョコを出す。 デリカシーないなぁ。 「あぁゆうタイプの人、お前苦手だもんね」 陰キャで悪かったな。 「好きなチョコ変えなかったでしょ?」 「…別に…」 あぁ、かわいくないな…。 自分でもわかっているからイライラする。 「だから買ってきたよ」 え…? 「お前の好きなの全部」 机にいくつか並べられたチョコは、 私がネットでチェックしてたやつばっかり。 「ハッピーバレンタイン」 やわらかい笑顔と一緒に、 彼の優しさに包まれる。 「あ、ありがとう」 「いいえ」 彼はそのうちの一つを開けて、 私の口に運ぶ。 「はい、あーん」 「…」 言われるがままに口を開く。 あぁ―おいし。 「あ、私からも」 デパートで買ったチョコを渡す。 「あ、うれしい」 心底嬉しそうに笑っている彼に癒されてしまう。 「あのさ、俺お前以外からモノも気持ちも受け取ることないから」 「…!」 そんな恥ずかしげもなく…。 思わずほほが熱くなる。 「でも、これは後でじっくり味合わせてもらうから」 彼が言うとなんかエロイな。 そんなふうに思ったことは内緒だ。
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