CHAPTER学生

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CHAPTER学生

暖かい春風がアパートのカーテンを揺らす。 彼が自分用に持ち込んだキャンプチェア。 そこに座って咲き始めた桜のつぼみを見ながら、 ビールを飲んでいる。 人の部屋で花見するな…。 でも正直この時間が心地よい。 高校生だろうか? 外からにぎやかな声が聞こえてくる。 「この前まで中学のジャージでコンビニ来てた子がさ、 高校の制服着てご来店いただいてさ」 彼が笑顔でそう話し出す。 「わかるじゃん?制服がぎこちないっていうかさ、 まだこなれてない感じ」 「…うん」 「卒業式でギャン泣きしてたのに、 数週間後にはあんなに嬉しそうにしてさ—」 ビールを一口飲んで立ち上がる。 私の方に近づいてくる。 「いいよね。10代」 ストンと私の隣に座る。 「あぁあ、お前の制服も見たかったなぁ」 「えぇ…。」 なんか小恥ずかしい。 この人はきっと学生(そのころ)から変わってなさそうだけど。 「S高だったんでしょ?絶対可愛いじゃん。 あのスカートひらひらさせてさ」 「ごめんだけど、私、制服スラックスだったから」 「えぇぇ、まじか」 「…うん。チャリ通だったし」 なんかごめん。 ひどい落ち込みようだな。 「あぁでも正解かも」 「え?」 「だって間違えてお前のスカートの中、 誰かに見られなくて済むし」 いや、もう高校時代の話だし。 「過去のことだから…」 「でもいやなの」 時折見せるこういう独占欲。 なんかちょっと喜んでしまう自分が悲しい。 「あぁ、でもやっぱ今のお前が一番だな」 そう言うとふいに私の方を向いて、 胸をわしづかみにする。 「…ちょッ!…」 「学生(そのころ)はこんなにおっぱい、 膨らんでなかったろうし」 そう言いながら私の胸に顔をうずめる。 「…ちょ、もう…」 「ぎゅってして」 仕方なく彼の頭に両手を回す。 少し強い風が吹いて外の桜の枝が揺れる。 “きゃー” って言うJKらしき声が聞こえる。 カーテンがふわっと部屋に入ってくる。 「気持ちいい…」 意味深な言葉が私の胸に響く。 私もちょっと興味あるよ。 あなたの制服姿。 でもその頃あっていたら、私たちは…。 いや…、考えないでいいや。 彼の頭に鼻さきを近づける。 「…大好き」 思わずつぶやいてしまった言葉に自分で驚く。 彼は 「ふふ…。俺も」 と胸の中で笑いながらつぶやく。
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