CHAPTER花見

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CHAPTER花見

「あぁここにいたら毎日花見だね」 私の部屋の窓もカーテンも開けて、 人をダメにする例のクッションを持ち込んだ彼。 寝そべるように春風に前髪をなびかせている。 普段見ることのできないおでこに、 妙な色気とときめきを感じてしまう。 部屋から見える駐車場のわきに咲く桜が、 少し肌寒い季節に暖かな彩りを添えている。 「でもさぁ」 ふいに起き上がり横に座る私を見降ろす。 「公園もなかなか見ごろだよね」 にかッと笑うその顔は、 何か言いたげな雰囲気。 「ねぇ。夜桜見に行かん?」 公園までは徒歩3分くらい。 少し肌寒いな…という気持ちと彼の笑顔を天秤にかける。 「…いいよ」 その顔に私は勝てない。 私の返事を聞くとすぐ、 勢いよく立ち上がり準備を始める彼。 私もあわててパーカーを羽織る。 公園の入り口の自販機であったかいコーヒーを買う。 特にライトアップはしていないけど、 街頭にぼんやりと照らされる桜はやっぱりきれいだ。 これって日本人だけの慣性なのかな? 胸がいっぱいになる。 「ここ穴場だねぇ」 彼の言葉にうなずく。 割とたくさん桜はあるのに、 見に来ている人は少ない。 きっと花見をするような人は、 一駅先の大きな桜並木から続く公園に行くのだろう。 彼は近くのベンチに座る。 とんとんと、彼がベンチをたたくので、 私も彼の隣に腰を下ろす。 当たり前のように指定席(彼の隣)に座れることがうれしい。 「最高だね」 私にコーヒーを渡しながら満足そうに笑う。 「…うん」 「こうしてお前を独り占めできるし」 肩を抱かれてドキドキする。 だって、ここは外だから。 誰かに見られたら恥ずかしい。 「誰も見てないよ」 どうして私の考えてることわかるんだろう。 「くっついてるとあったかいっしょ?」 やわらかい風に、少しずつ舞う花びら。 なんのBGMもないし、楽しい話題もないけど、 とっても満たされる贅沢な時間。 「あぁ、寒くなってきたね」 「うん」 「コンビニであんまん買ってかえろうか」 「え?」 「あ?もしかして肉まんが良かった?」 「いや、どっちでもいいけど…」 ベンチから立ち上がって歩き出す。 「じゃぁ、一個ずつ買って半分こする?」 「…うん」 「あぁでもピザまんもいいなぁ」 あぁ花より団子だな。 悩みながら歩く彼の背中を追いかける。
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