CHAPTER休日

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CHAPTER休日

「行ってきまーす」 「あ、うん…行ってらっしゃい」 休日のコンビニバイトは珍しい。 昼間は女の子や主婦が多いから。 いつもは気にならないけど、 今日はなんかもやる。 せっかくの休みだから、もう少し一緒にいたかったな。 なんからしくないけど、そんなふうに思う。 マグカップにお湯だけ入れて、 窓を開けてベランダに出る。 思わず目を向けてしまう。 建物や木々の間に見えるコンビニの看板。 何やってんだろ。 普通の人なら見逃しそうなほどの目印。 着替えて掃除して洗濯して、 何でもない一日を過ごす。 昼下がりのひと時。 彼の折り畳み椅子に体を預けて、 テレビの音をBGMにまどろむ。 だんだんだんだん! 明らかに騒音被害を出している足音があがってくる。 ふふ…。 思わず笑ってしまう。 ガチャ、ガチャ、ガン! 「ただいまぁ!」 おそらくレジでも出さないほどの声と、 みなくてもわかる笑顔。 わかっていても振り向いて確認する。 「おかえり」 「よかったぁ、出かけてなかった。」 そう言いながら靴を脱いで、 私にづかづかと近づく。 「うがい手洗い」 私に言われて、もどかしそうに従う。 ガラガラガラ…。 ジャァ―。 キュウッ! 蛇口の締まる音。 小走りの足音。 ガバッ! 音がしそうなほど勢い良く抱きしめられる。 「…冷たい」 ちゃんと拭いてない手が私の背中を濡らす。 「ごめん」 そう言いながら私の唇をふさぐ。 「ん…」 短く息をもらす間もなく押し倒される。 「…どうしたの?」 「いや、せっかくのお前の休みだから」 だから何? 心の中でツッコみながら笑ってしまう。 「今日からくじ始まったんだけどさ」 そう言てぽっけからスマホを出して見せる。 「2等のぬいぐるみ。触り心地よさそうじゃね?」 彼のスマホの中の写真を見る。 確かに、もふもふぷにぷにしている。 「柔らかそ…」 「うん」 「でもそれと今の状況(これ)に何の関係が…?」 「え?だってお前も柔らかいじゃん」 「え?あっ…」 言うより早く私の服の中に彼の手が滑りこんでくる。 「ここも」 そう言いながら胸を、 「ここも」 おなかを 「ここも」 おしりと太ももを、 確かめるように、いつくしむように撫でていく彼の手のひら。 「…いやみ?」 「違うよ。お前の体は柔らかくて心地いいってこと」 「何…それ」 彼の首に手を回してその隙間を埋める。 「かわいい」 彼の言葉は麻薬のようだ。 その声で『いらっしゃいませ』とか言わないで、 なんて理不尽なことを考えてしまいそうになる。 「揚げ物のにおい」 「あ、わかる?今日唐揚げあげたんだ」 レジ前のウォーマーの中の唐揚げが思い浮かぶ。 「そか…」 嫌いじゃない。 唐揚げも、その匂いをまとった彼も。 「ふふ…やらかい」 改めて確かめるように私を抱きしめるその腕に、 何の戸惑いもなく体を預ける。 「はぁ…」 ため息とも吐息ともつかない声が漏れる。 有意義な休日。
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