CHAPTERハロウィン

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CHAPTERハロウィン

「お菓子買わないとイタズラしちゃうぞ」 コンビニの制服のまま私の背後からつぶやく彼。 ジュースを選ぶ私と背中合わせに立ってお菓子を整える彼。 「ソレ、『お菓子くれないと』だし」 「…」 「ていうか店員がお客さんにいたずらしちゃだめだし」 「もう少しでバイト上がりだから」 私の方を見ずに自分の好きなお菓子をひたすら棚に並べる彼。 ちょっと答えもずれてるし…。 都合の悪いことは聞き流してるし。 「ソレ、ください」 「ありがとうございます」 彼が陳列しているお菓子をさしてそういうと、 全力の営業スマイルで私にお菓子を手渡す。 レジを通して店を出る直前。 「すぐ終わるから先帰ってて」 彼に声をかけられる。 いや、私の家じゃん。 『先に帰って』て何? わかってる。 このお菓子が食べたいから、…。 いや、そうじゃなくても最近はバカなほど私の部屋にいるよね。 「ただいまぁ」 彼はそう言って私の部屋に帰ってくる。 だから『ただいま』って。 あんたの家じゃないじゃん。 「お疲れ」 「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ」 いやいや、聞いてる? うがい手洗いをしてソファーに座る。 私も当たり前のように麦茶を用意してしまう。 「おいで、一緒に食べよ」 そう言ってソファーの彼の横をトントンとする。 もう、いろいろ違くない? 私の家だし、私が買ったお菓子だし、なんであんたが振るまってるみたいになってるの? 心の声とは裏腹に私は黙って彼の横に座って、 彼の差し出すお菓子を受けとる。 でもそれは許されなくて、 彼はそれを私の口に直接運ぶ。 「ほら、あーん」 そんなバカップルみたいな…。 そう思うけどその甘さにあらがえるはずもない。 そっと開いた唇の間にお菓子が差し込まれる。 舌の上で溶け行く感覚を味わう。 そんな私をニコニコで見ている彼。 この笑顔は本物。 コンビニでは見えない彼の顔。 その優越感と安心できるポジションにほほが緩むのは否めない。 私を見て満足した彼はもう一つお菓子を私の口に差し出す。 条件反射的に餌付けされる私。 でもくわえた瞬間にそのお菓子を彼の唇が半分奪っていく。 「…!ん!」 小さく訴える。 でも彼の口で瞬時に溶かされたその甘さは、 すぐに私の中にも溶かし込まれる。 深く溺れてしまって戻れない。 沼ッて思考まで溶けていく。 かわいい顔してそんなキスをくれるなんて、 マジでイヤ…。 「まぁ、お菓子くれてもいたずらするんだけどね」 恥ずかしいセリフのテンプレも、 彼の口からはかれると特別になってしまう。 そのままいたずらという名のご褒美をいただいておこう。 そう思って私は自分を手放して彼にゆだねる。
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