紹介

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 華道織原流の家元の孫である織原由花は、今日も床の間に飾る花を家元である祖母に頼まれて活けていた。  「由花。それが終わったらお茶でもしましょう。お弟子さんがくるまで休憩したいわ」  「はーい。わかりました」  由花は急いで残っている花材をかたづけると、立ち上がりできあがった花器を両手で持ち上げ、床の間に飾った。  今日はアヤメやナデシコを使った。できあがりに満足した由花は台所へ向かっていった。    由花は二十五歳になる。    両親は事故で小学生時代に他界している。華道のイベントに出かけた先で交通事故に遭ったのだ。一人っ子だった由花にとって、衝撃であり、生きる気力が失われてしまった。    だが、同居していた祖母がまだいる。そして祖母の生け花を継承するはずの父と母がいなくなり、由花は祖母のためにも、織原流のためにも生き続け、今まで以上に真剣に学ばねばならなくなった。  もう、両親が他界して十三年になる。由花の生け花は完成していたが、彼女はまだまだ新しい形を求めて精進していた。  祖母には緑茶、自分はコーヒーを入れてお盆に乗せると祖母のいる部屋へ運んで行った。
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