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「おばあちゃんの病院の中庭で急に思い出したの。家元を継ぐことを色々迷っていたけど、思い出したら吹っ切れた。昔、制服を着たお兄さんと約束したもの。たしかおうちの仕事を一緒に将来やろうねって……。ハンカチを探したらびっくりした。あなたのイニシャルだった。偶然かもしれないからあなたのおばあさまに確認した。当時玖生さんが病院へ来ていたか思いきって聞いてみたの。そしたら……」
「由花。俺は君の名前を聞いてすぐ思い出したよ。あのとき、君は俺に話してくれたんだよ。自由に花を活けるという意味の名前だと……」
「……え?」
「あのとき泣いていた小学生の女の子が君だとわかったが、だから付き合いたいと思ったわけではない。俺と真正面から向き合ってくれた君だから付き合いたいと思ったんだ」
「でも、教えてくれても良かったのに……」
「そうだな。でも俺を見ても君は気付かない。覚えていないんだとわかったし、ご両親の辛い記憶と重なるかもしれないから言わない方がいいだろうと思っていたんだ」
「そうだったのね」
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