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「知らなかった……。それで、帰りが遅かったんですか?」
「あー。バレちゃった。バレない方がかっこいいのにー」
拗ねたように口を尖らせた。
「そんな……ありがとうございます。ごめんなさい。裕也さんにも迷惑かけて……」
「俺が勝手にしたことだから。裕也は警察官の仕事だし! 気を使わせちゃうかなって、泉さんには内緒にしてたんだ」
知らなかった。真白さんが私のために、たくさん動いてくれていた事を。
「私と会いたくなくて、避けられてるんだと思ってた。態度も素っ気ないし……」
「態度を素っ気なくしたつもりはないんだけど。ただそれは別件で……」
言いづらそうに視線を逸らした。
「やっぱり、私のこと迷惑なんじゃ」
「違うんだ……。俺の個人的な理由なんだよ、」
「それって……?」
真白さんは顔をゆでだこみたいに真っ赤にさせて俯いた。
「キ、キ、キ、」
「キスのせいですか?」
言葉を詰まらせるので、被せるように問いかけると。うん、と深く頷いた。
「……俺にとっては一大事だったのに、泉さんは『皮膚と皮膚が触れただけ』なんて言うから、俺だけ気にしてんのかなって」
キスをされたあの日。確かに『皮膚と皮膚が触れただけ」と言った。
本当は恥ずかしいくらい動揺していた。動揺を見せまいと強がって出た台詞だったのだ。
その台詞のせいで、真白さんを動揺させてしまっていたなんて。
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