6

12/12

574人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
「私にとって、好条件すぎます……」 「俺にとっても好条件だよ?」  真白さんにとっての好条件の定義がわからないが、その言葉で迷いはなくなった。 「……よろしくお願いします」  頭を縦に大きく振っていた。好条件すぎて断るはずがない。  そして、あわよくば童貞の真白さんを――。     「あ、でも。絶対にそういう雰囲気に持ち込まないこと。これは約束して?」 「そういう雰囲気とは?」 「俺、童貞だからさ。その……男女の関係には絶対になれないから!」  「ぜったい」この4文字は強調されて、確固たる気持ちが伝わった。ここまで言い切られると逆に清々しい。少し芽生えた邪な期待はすぐに打ち砕かれた。   「えっと、それは、好きになってはいけないということですか?」 「俺は泉さんを好きになることはないから。好意を寄せられても、申し訳ないけど答えることはできない」 「……」  きっぱりと言い放たれた。  あれ。分かっていたことなのに、改めて言われると胸の奥が痛い。   「どうする? 無理にとは言わないよ?」  絶対好きになってはいけない上司との同居生活。波乱が待ち受ける気配しかしない。だけど、この時の私には断るという選択肢がなかった。  それは、元カレから逃れるため。  そうだよ。そのためだけだ。  そう何度も心の中で唱えた。  芽生え始めた感情に蓋をするように。 「同居……させてください! よろしくお願いします」  こうして、イケメン童貞上司との同居生活が幕開けした。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

574人が本棚に入れています
本棚に追加