7

12/15

572人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
 ごくり。誰かが唾を呑む音が聞こえた気がした。真白さんが今まで見たことのないような、冷たい目をしていたので男性社員も硬直していた。 「えっと、泉さんが秋月さんに怒鳴って、それで秋月さんが泣いちゃって、」  違う。男性社員が説明した内容を否定したかった。  だけど、言葉に出来ない。すがる思いで真白さんに視線を向けるも、彼とは視線が一行に合わない。  胸が痛い。  秋月さんに嘘をつかれたことよりも、真白さんに信じてもらえないことに、胸がひどく痛む。  真白さんには信じて欲しかった。     「あー。違うよ? 怒鳴り声は秋月さんだから。秋月さん、こっちまで聞こえてきてたから。今度から気を付けて」 「えっと、」  真白さんは淡々と否定した。疑うことなく、私が怒鳴ったわけではないことを分かってくれた。  まさかバレるとは思ってもいなかったのか、秋月さんは目を泳がせた。反論せず口を噤む。 「声で見分けられるよ? 秋月さんが怒鳴ってたよね? 秋月さん。人のせいにするのはよくないよ」  言葉を発しない秋月さんに、真白さんは冷たい口調のまま畳みかける。真白さんは基本的に優しい。会社で怒ることは滅多にない。  そんな彼が、冷たく言い放つので、秋月さんの味方をしていた男子社員も息をのんで見守っている。  立場が逆転してしまったせいか、秋月さんは口を一文字に結んで開こうとはしない。そんな彼女の態度に見かねた真白さんは、秋月さんの味方をしていた男性社員に視線を向けて言い放つ。 「それにお前たちも、社員の声も判別できないのか?」 「秋月さんが怒鳴るはずないと思って……」 「泉さんの話は聞いたのか? 一方の意見だけ聞いて、決めつけるなんてしたらダメだろ」  「……すみません」  普段怒らない真白さんが、淡々と言い放つ言葉には迫力があった。男性社員たちは肩を窄ませ謝っている。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

572人が本棚に入れています
本棚に追加