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 この日は案件が重なり、営業部内全体が忙しさに包まれ殺伐とした空気が漂っていた。 「泉さん、悪いんだけど。午後一、お客様のところに訪問することになってさー。この資料まとめといてくれる?」 「午後一ですか?!」  営業の山田さんに、無茶ぶりともいえる仕事を頼まれた。 「忙しいところ、本当に申し訳ない! これから、他のお客様のところにいかないといけなくてさ。泉さんが無理な場合、他の人に割り振ってもらえる? 13時までに共有フォルダに入れといて。本当ごめんね」  手を合わせて申し訳なさげにいうので、頼まれた仕事を断ることはできなかった。渋々引き受けたはいいが、私も急ぎの仕事で手がいっぱいだった。他の社員に頼まなければならない。  仕事状況を確認して判断すると、今手が空いているのは秋月さんだけだった。あまり頼みたくない相手ではあったが、仕事なのだから仕方がない。   「秋月さん、急ぎの仕事入っている? 急ぎがなければ、この資料をまとめてほしいの。山田さんが午後イチで使うから、13時までにお願いしたい急ぎなんだけど……」 「……」  秋月さんは無言のままゆっくり振り向いた。 「分かりました。やっておきますね」 「ありがとう。13時までに必要だから。お昼休憩より前に終わらせてもらえると助かる。共有ファイルに入れる前に、見せてくれる? 一応確認したいから」 「はーい」  秋月さんと仲はこじれたままだったが、仕事のことは別だと思った。入社2年目の彼女は、もう新人ではない。ある程度1人で仕事をこなせるし、仕事面に関しては信頼している。    秋月さんに頼んだのは簡単な資料作成だった。入社二年目の秋月さんなら、余裕でこなせる仕事。休憩をとる暇も惜しいくらいに仕事が切迫していたので、こちらから進捗状況を確認する時間はなかった。  秋月さんからヘルプの声が上がらないということは、問題が起きていないのだと。そう思い込んでいた。
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