11

3/13
前へ
/111ページ
次へ
   真白さんと向き合えないまま、また数日が過ぎた。定時に仕事を終えて会社を出た時だった。  見覚えのある人影に足が止まる。    ――楓くんだ。  元カレの楓くんが会社の前で待ち伏せをしていたのだ。以前住んでいたアパートは引き払ってある。アパートでいくら待ち伏せをしても私が現れないので、会社まできたのかもしれない。  どくん。心臓が嫌な音を立てて鳴り出した。  悪寒が全身を伝う。恐怖が押し寄せ、手が震える。  人目が多いオフィス街。さすがに会社まで来るとは思っていなかった。慌ててスマホを手に取り、通話ボタンを押していた。 「もしもし、」  無我夢中で電話をかけた相手は真白さんだ。  優しい声ではなく、どこか冷たい声にハッと我に返った。頭で考えるよりも先に勝手に真白さんに電話をかけていた。  心底真白さんに甘えている証拠だ。「真白さん。元カレの楓くんが会社前で待ち伏せをしていて、助けてください」そう言おうと思ったのに、言葉がでてこない。真白さんに避けられていることを思い出したからだ。  迷惑をかけて、これ以上嫌われたくない。 「もしもし? 泉さん?」 「ご、ごめんなさい。なんでもないです」  一方的に告げて返事を聞かずに通話を切った。  当たり前のように真白さんに頼ろうとしていた。甘えすぎていたんだ。  通話を切って顔をあげると、私に気づいた楓くんと目が合った。  ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、ゆっくりと向かってくる。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

572人が本棚に入れています
本棚に追加