あなたたちが神と呼んだ

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新しい生活に胸を躍らせた。これから毎日なにをしよう。なんだってできる気がする。今のうちに高卒認定試験の勉強を始めてもいいし、祖母の家の近くの高校に通い直す選択肢だってある。二年生までの単位はあるから、編入はできるはずだ。母が教えてくれた中卒、高校中退という経歴で生きることの厳しさを思い知ったからこそ、やり直したいと思えた。 「私、高校に通い直したい」  祖母は目を丸くした。そんなに驚かれるようなことを言っただろうか。 「通わなくても大丈夫だよ。もう勉強なんてしがらみから抜け出していいの」  違う。私は勉強を煩わしいと思ったことはない。学ぶことの楽しさを知っているから、お金さえあれば大学に進学したいと考えていた。だが、母との生活を考えると、それは現実的ではなかったためやむなく諦めたのだ。それを祖母に簡単に伝えてみる。祖母ならわかってくれると信じた。  すると、私の話を聞いて祖母は頷いてくれた。 「そうね、勉強はいつでもできるけど若いうちにしておくに越したことはないわ。でも、もう一度高校に通って琴子が嫌な思いをするのは嫌なの。だから、高卒認定? かしら? それを受けて合格したら、大学受験しましょ」  祖母の言葉に嬉々とした声でありがとうと言った。握った祖母の手はしっかりと傘寿を超えていた。応援してくれる人がいる。その存在のありがたさが身に沁みた。こんなふうになるのなら勉強道具も持ってくるべきだったと後悔したが、まだ時間はあると自分に言い聞かせた。噂だが、高卒認定試験は普通に高校を卒業するよりも難しいと聞いたことがある。自分には縁のない話だと思って詳しく調べたことはないが、生活が落ち着いた頃にでもちゃんと調べよう。いつ試験があるのか、頻度、受験資格に解答方法などについても知っておきたい。手元にスマホがあるのだから、本当はすぐにでも調べることができたが今は祖母との時間を大切にしたかった。向こうに着けば、嫌でも一人の時間ができる。その時にしよう。  車窓から見える景色がいつの間にか、田んぼや畑だらけの田舎を走っていることに気づいた。そういえば、祖母の家に来るのはいつぶりだろうか。中学生になってからは一度も来ていないような気がする。祖母の大きな日本家屋がこわかった記憶がある。年季が入っていて、幽霊でも出そうな雰囲気があった。今はどうなっているのだろうかと、期待が膨らんだ。あの頃よりもっと禍々しくなっているかもしれない。
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