あなたたちが神と呼んだ

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 その後は一度私の家に帰り、荷物をまとめた。一週間ぐらい旅行に行くかのような、そんな程度の荷物。それもほとんどが着替えだ。祖母はしばらくこっちには来ないから大事なものも持って行きなさいと言ってくれた。だが、どこにでも持って行きたいと思うような大事なものというのはなにもなくて、必需品しか詰め込まなかった。思っていたより荷物が少なかったのか、祖母に少し心配されてしまった。 「大丈夫だよおばあちゃん。また何か、必要になったら時間のある時に取りに来るからさ」 「閑散期になったら引っ越し業者を使って、まとめて持ってくるのがいいかもしれないね」 「それもいいね」  スーツケースを持って、駅まで歩いた。祖母はもう傘寿を過ぎているのに随分と元気そうだった。これまで大きな病気にもかかったことはないらしく、健康には気を遣っているようだった。今も、十代の私と変わらないペースで歩いている。私が気を遣ってゆっくり歩くと、笑いながら老人扱いするんじゃないよと言われてしまった。人生百年時代と言われている現代で、祖母がその通りに生きてくれるなら残り二十年は一緒にいられる。そう思うと少し安心できた。母が亡くなってから一人で生きる寂しさに押しつぶされそうだったから、心の底から嬉しくなる。  新幹線に乗っている間、祖母は向こうでの暮らしについて話してくれた。  詳細は言えないが、毎日行かなければならないところがあるらしくその間は留守番をしていて欲しいということ。買い物は代行を頼んであるから、行かなくてもいいこと。家事はすべて祖母がやるからなにも手伝わないでいいこと。どこかに出かけるときは連絡すること。 「おばあちゃんとの約束、守れる?」 「もちろん。でも、本当に家事とか手伝わなくてもいいの? お母さんが寝込んでいるとき、私もやっていたからできるよ」  おばあちゃんはぎゅっと私の手を握った。 「家事はね、ボケ防止にもなるんだよ。ボケてしまって琴子に面倒見てもらうなんてことになったらおばあちゃん恥ずかしいからね。私のためだと思っておくれ」  そっかと納得して、頷いた。どれも祖母が私のためを思ってくれての約束事だと思うと嬉しくなった。
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