あなたたちが神と呼んだ

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 チラリと祖母の方を見てみるといつの間にか眠っていた。どこで降りるのかを知らない私は思わず焦ったが、祖母が窓際に置いていた切符を確認して安心した。新幹線内の案内をみると、次らしい。また、放送があった頃に祖母を起こそう。静かに眠る祖母の顔には確かに母の名残りがあった。二人が一緒にいるところをあまり見てこなかったため、意識したことはなかった。だが、母が病んでいたせいか老けるのが人よりもずっと早かった気がする。シワの付き方や、笑い方がとてもよく似ていた。私もこんなふうに歳を重ねて行くのだろうかと考える。 「〜停車します。本日もご利用くださいまして、ありがとうございます」  降りる駅だと気づいて、そっと祖母の肩を揺らした。すぐには目を覚ましてくれず、うーんと唸っていたが「もう降りるよ」と言うと一瞬で覚醒した。 「ごめんね、いつの間にか寝ちゃってたよ。起こしてくれてありがとうね」  対面で座っていたので、私が先にスーツケースを持って通路に出た。さすがに新幹線の中では安定して歩けないだろうと思って手を差し出したが、いらなかったみたいだ。しっかりとした足腰で立ち上がって、扉まで歩いた。私の中にある八十代というのはもっとよぼよぼ、よろよろしているイメージが強かったせいか、少し驚いた。下車する際に段差でつまずかないか見ていたが、なにも問題はなさそうだった。そのまま改札を出ると、祖母が近くに車を停めているというのでそこまで歩いていった。最近新しい車に乗り換えたのと楽しそうに話していたので、どんな車なのかを楽しみにしながら向かっていく。すると、祖母はあれよと言って指を指した。その先にあったのは鮮やかな黄色の丸っこいデザインの車だった。自信はないが、ルパン三世に出てくる車と同じ車種のような気がする。 「かわいいでしょ。一目惚れしたの」  祖母が以前どんな車に乗っていたのかは知らないが、なんだか意外に思えた。うっとりとした様子で愛車を眺め、後部座席を開けてくれた。「スーツケース入れちゃって」と言われたので適当に言われた通りにしたが、突然一喝された。 「大事にしているの。傷つけないで、汚さないで」  そういうことかと納得して、座席に横向きに置くつもりだった荷物を縦向きにして、タイヤが足を置くところにつくように置いた。 「これなら大丈夫?」 「そうね、それなら」  祖母がどれだけこの車に愛着を持っているのかが、一瞬で伝わったせいで助手席に座るのも躊躇われた。
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