あなたたちが神と呼んだ

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「失礼します……」  恐る恐る、靴で車体を汚してしまわないようにそっと乗り込んだ。祖母は運転席に座るなり、かなり癖のあるサングラスを手にしてエンジンをかけた。音楽も流そうとしていたので、どんな曲がくるのかと思って待っていたら意外とジャズが流れ始めた。ジャズ好きなのかと聞いてみると、この車の雰囲気に合うからと理由で流しているだけらしい。そうなると、サングラスも同じ理由っぽいなと思って、あえて触れなかった。ノリノリで走り始めた祖母は見たことがないぐらい楽しそうにしていた。道はすぐに田舎道に入っていった。車窓から見ていた景色とそんなに変わりがない。こんな田舎をこの車で走っていたら目立つだろうに、どう思っているのだろうか。だが、そこは私が首を突っ込む場所ではないので、なにも言わなかった。ジャズが流れる車内は穏やかでなんだか眠気に誘われる。なんとなく、眠ってはいけないような気がして外を見ていると、住宅街の中に入っていった。少し入りくんだ道になっていて、しばらく進んだところで祖母が車を駐車させた。そこは記憶にある日本家屋とは全く違う、綺麗なアパートだった。 「おばあちゃん引っ越したの?」 「そうよ。今はこっちに住んでいて、前に住んでいた家は別のことに使っているの」 「そうなんだ。てっきりあの大きい家に行くものだと思ってたからびっくりしたよ」  祖母の言っていた毎日行かなければならないところがあるというのは、前に住んでいた家のことだろうか。すぐにでも訊いてみたかったが、そのうち教えてくれるだろうと今は黙った。一階の奥のドアに案内されて、家の中に入ると、祖母らしく掃除が行き届いていて綺麗にされていた。玄関からキッチン、リビングに入っても床に物は置かれておらず、ツヤツヤとフローリングが輝いていた。母と暮らしていた家では考えられない光景だった。物が散乱していて、綺麗にしても何度もリセットされることがわかっていたから私も掃除しなくなった。だが、祖母の家はまったく違う。同じ二LDKとは思えないほど、広々と感じた。 「琴子の部屋はこっちね。急だったからまだ片付けられていないんだけど、すぐ綺麗にするから」  そう言われて案内された部屋は六畳ほどの広さの洋室だった。祖母は片付けられていないと言ったが、どこのことを指してそう言っているのかわからないぐらい整理整頓された部屋だった。どこを掃除するのかと訊いてみると、祖母の荷物を隣の部屋に移したいだけらしかった。
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