あなたたちが神と呼んだ

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置かれていたのは季節外の服だけだった。小さな衣装ケースを隣の部屋に運んでいくと、あっという間に部屋は空になって広々とした空間が現れた。代わりに祖母の部屋が荷物でいっぱいになったが、すぐに整理するから手伝わなくていいと言われた。祖母が部屋の整理をしている間に自分の荷物を片付けていこうとスーツケースを広げる。だが、当然衣類しか持ってきてなかったのですぐに終わってしまった。この広い部屋をどう使おうかと考えるだけでワクワクした。祖母にベッドや机を買って欲しいと頼めば、買ってくれるだろうか。祖母におねだりしたい気持ちと、どこかで遠慮してしまっている自分もいて素直には言い出せなかった。隣の部屋を覗いてみると祖母はもう片付けを終えたようで、部屋にはいなかった。物音がする方へと歩いていくと、祖母はキッチンにいた。棚から何かを取り出そうとしているようだった。 「手伝うよ。どれ取ればいい?」 「ごめんねぇ、自分で片付けたものすら取れないなんて恥ずかしいよ。その緑の袋のお菓子を取ってくれるかい」  言われるままお菓子を手に取って祖母に渡した。ポッドでお湯を沸かしながら祖母はお茶とお菓子の用意をしてくれていた。手伝えることもなさそうだったので、椅子に座った。お菓子をお皿に盛り付けている祖母を見ているとなんだか安心感があった。母が精神的に不安定な状態で包丁を持っている姿を見ている時ほど、不安で心配になって落ち着かなくなることはなかった。私が代わりにやるから、頼むからその包丁を置いてくれと何度願っていたことだろう。それに比べ、祖母がキッチンに立っている時の表情が穏やかだ。  しばらくして、温かいお茶とガトーショコラをお皿に乗せたお皿が運ばれてきた。 「夜ご飯には早いからね、おやつだよ」 「ありがとう」  ガトーショコラを一口食べると、口いっぱいにチョコが広がった。そういえば、こんな小さな贅沢すらしてこなかったなと、幸せを噛み締める。 「美味しそうに食べるねぇ」  ニコニコとした顔で祖母にそう言われてなんだか恥ずかしくなる。お茶も飲んで一息ついた。 「そういえば、あの部屋じゃ寂しいでしょ。なにか買って欲しいものはあるかい」  まさか、祖母のほうから聞いてくれるとは思わず驚嘆した。素直に言うべきだろうかと悩んでいると、祖母がそれに気付いたのか遠慮しなくていいと言ってくれた。
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