あなたたちが神と呼んだ

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 中退理由を正直に話しただけでこんなことを言われるのかとショックを受けた。私が何も言えないままでいると、その人の隣に座っている面接官が小さな声で「圧迫面接だと言われたらどうするんですか」と注意していた。 「うちじゃ中卒は雇えないよ。ここで働きたければ先に高卒認定を取ってくることだね」 「わかりました。本日はお時間を割いていただきありがとうございました」  落ち込んだ様子を見せないように、最後まで力を入れて退室した。会議室を後にして、受付の人にも一礼してオフィスを出た。ここの面接官が中卒を嫌っているだけだ。中退の理由が気に食わなかっただけだ。そう言い聞かせて、帰路についた。その電車の中、スマホを開けて次に応募する会社を探していたが応募資格はどこも高卒以上となっていた。学歴不問と記載されている会社は見つからなくなっていた。母の言っていた中卒で働くことの厳しさを目の当たりにしていた。いや、目の当たりにはしていない。働けてすらいないのだ。雇ってすらもらえてないのだ。これからどうしようかと不安になる。やはり、働く上での条件を妥協しなければならないのだろうか。給料については期待していないが、どうしてもやりたくない仕事というのはあってそういうのは避けてきた。  考えるのをやめたところで、家に着いた。無言で靴を脱いで、すぐに自分の部屋に向かった。今すぐにでもこの堅苦しいスーツを脱ぎたかった。部屋着に着替えて、キッチンに行くと珍しく母が立っていた。 「珍しいね」 「まぁ、今日は特別だからね」  なにか特別なことなんてあっただろうかと思考を巡らせたが、それは冷蔵庫を開けたところで解決した。私の名前が書かれたチョコプレートが乗っている誕生日ケーキが入っていた。 「そっか……。今日誕生日だっけ」 「忘れてたの?」 「最近忙しかったから、意識してなかった」  母の方に顔を向けると、微笑んでいた。そうだ、毎年誕生日はこうやってお祝いしてもらっていたのだ。パティシエを志していたらしく、母が作るスイーツはどこのお店のものよりも美味しかった。それがなによりの自慢だった。 「十八歳おめでとう」  ケーキをテーブルの上に出して、母がろうそくを灯してくれた。この年にもなって、ろうそくを消すのはなんだか恥ずかしかったが、それでも母が変わらずこうやって祝ってくれることが嬉しかった。
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